「これからはこの町にずっといて下さるのですか?」
ハングルが切り出した。
「そうじゃの、あなたと一緒ならわしも楽しく暮らせると思う。
わしはここで余生を楽しく生きるよ。
町の片隅で薬屋でも開こうかのぉ……」
「おっ、いいねぇ。ばあさんの薬は良く効くからな」
身をもって薬の効果を体験したデントが証言する。
「そういうわけじゃ。わしはもうおまえさん達と旅することができん。
短い間じゃったが、おまえさん達のおかげでえきさいてぃんぐな時を過ごせた。
洞窟からも拾い上げてくれたしのぉ……感謝の気持ちでいっぱいじゃ」
そう言うとコネッカは涙を流した。
これまでのことがフラッシュバックしているのかもしれない、涙はなかなか止まらなかった。
「おかしいのぉ……何故か止まらぬ……」
その顔は笑っていた。幸せそうな笑顔だ。
ハングルがコネッカの肩に手をやる。
これから一緒に生きていこう、そう言っているようだった。
そんな様子を見つめながら、デントと楽、そして女主人の3人はその部屋をあとにした。
「おまえさんたちはこれからどうするんだい?」
パブ・ガイアのカウンターでジールを出しながら女主人が訊ねた。
「拙者はこれからアスリースの方へ行こうと思っています。
両親のことも気がかりですし、もっと色々な世界も見てみたい」
「そうだな。せっかくヴァルキリーの羽も手に入れたしな」
「デントさんはどうしますか」
「そうだなぁ……船も壊れたし、これからは陸路か……。
……決めた! 俺もおまえと一緒に行くぜ。
召喚術師の一人旅は結構つらいからな。よろしく頼む!」
「……へぇ、あんた術師だったんだ。意外だねぇ。
あたしも今まで術師は3人くらいしか見たことないけど、あんたみたいなのは初めて見たよ。
あたしの会った召喚術師はもっと落ち着いていて知性あふれる顔つきしてたからねぇ……」
「!! どこで、どこで召喚術師に会ったんだ?!」
カウンターを乗り越える勢いでデントが詰め寄った。
「ア、アスリースの湖沼地帯だよ」
「そうか……湖沼地帯か……よし、楽、次はそこへ行こう!」
「勝手に行き先を決めるんじゃなよ。
そっちの若いのにだって都合っていうものがあるだろう」
「いえ、いいんです。
拙者もデントさんとなら安心して旅ができますし、その湖沼地帯も一度見てみたいので……色々な所を回って両親の情報を探します」
「そうかい……見つかるといいね。世界中の剣豪がそれを望んでるさ」
「!!! 知って……」
「勿論さ。あたしの耳と情報網をなめちゃいけないね。
それに、あんたからはどことなくあの二人の雰囲気を感じるよ」
「なんだ? 楽の両親はそんなに有名なのか?」
「あんたは術師だから知らないだろうけど、剣を使う者だったらたいてい知っているさ」
「へぇ……そうなのか……。まっ、そんなことはどうでもいいさ。
はやく行こうぜ、楽!」
「はい、行きましょう! 湖沼地帯へ!」
その日のうちに二人はウェストルをあとにし、関所へ向かった。
ヴァルキリーの羽はもうお守りである必要がなくなったようだが、相変わらずここを通るのには必要らしく、関所の入り口できちんとチェックされた。
町が落ち着いてきたらヴァルキリーの羽を持たずともここを通れるようになるだろう。
酒場町ウェストルではレッドドラゴンフライの滅びた日、すなわち紅月の30日をコネッカ祭として祝うことにした。
ハングルの叔父、前町長が約束した「巨像」の件の代わりらしい。
どちらにしてもコネッカにとっては大喜びの祭だ。
そのコネッカは、町長の家の隣で薬屋を開くことにした。
「ラクデン」というその薬屋は強烈で良く効く薬を扱う店として開店当日からその名が町中に広まったらしい。
……こうしてウェストルは無事平和になり、楽達はテーヴァを出た。