「失礼します。町長、恩人達を連れて参りました」
およそいつもの女主人では考えられないような口調である。
「入りなさい」
年老いてはいるが、凛とした声がドアの向こうから聞こえ、女主人がドアを開けて楽達に中に入るよう促した。
「ようこそ、私はこの酒場町ウェストルの町長でハングルと申します」
60を超えたくらいの老人が部屋の真ん中で瞑想をしていた。
知性を隠しきれないその顔は、見ているだけで奇妙な安心感を与える。
若い頃は女性達が放っておかなかったような風である。
「よくぞレッドドラゴンフライを倒して下さいました。町の者を代表してお礼を言わせていただきます」
そういうとハングルは両の手をついて深く頭を下げた。
テーヴァでいう最敬礼だ。
「いままで誰一人としてドラゴンフライを倒せる者はいませんでした。
いや、それに挑戦する者もいなかったのかもしれません。
だから私達は倒すのではなく、封じ込めようとしました。
一人のソーサレスによって。
もう随分昔のことになりますが、彼女はどうしているでしょうか。
他国からの旅人であったにもかかわらず、彼
女はこの町のために快く結界役を引き受けてくれたのです。
そして、この町の犠牲に……」
「犠牲になんかなっておらんぞい!」
悲しげにうつむいたハングルの言葉をコネッカが引き継いだ。
「わしは犠牲になんてなっておらんぞ。
自分から志願したんじゃ。この町のため、あなたのために……。
わしはコネッカ。
久しぶりじゃな、ハングルさん。町長になっていたんだね。
あなたなら適任じゃ。この町は昔より良い町になっているようしのぉ」
うつむいていたハングルが急に顔を上げ、コネッカの方を見た。
「あ、あああ、コネッカさん……無事だったのですね……」
先程の悲しみの涙から一転、今度は喜びの顔を向けて涙を流す。
「相変わらずあなたは涙もろいのぉ……」
「……ばあさんの知り合いか?」
会話に入れなかったデントが横槍をさす。
「そうじゃ。
若い頃この町に立ち寄った時、困り果てた同い年の若者を見つけてな、事情を聞いてみると結界のことで悩んでいるらしい。
自分のためではなく町のため、みんなのために悩むこの人が新鮮での、その心にうたれてこの役を買って出たんじゃ。
確かに、俗世から離れて暮らすのも寂しいが、洞窟の中でなら思う存分魔法の研究ができると思っての。
それに、ハングルさんのようなかっこいい殿方にずっと忘れられずに想われていると思うと、どうにも心が弾んでのぉ……」
コネッカは頬を紅らめる。
「(後半の方がばあさんの本心だな……。)」
デントが楽にだけ聞こえるくらいの小さな声でぼそっとつぶやいた。
「それにしても、随分いい老け方をしなすったね」
「いや、もうただの老いぼれですよ。コネッカさんは綺麗な昔のままだ」
「(年寄りの感覚はよくわからない……綺麗?)」
デントがまたぼそっと横槍を入れる。
しばらくはハングルとコネッカの昔話が続いた。