レブルの森に踏み込んだ二人。
ひんやりした空気、そして、ピリピリした何かを感じる。
楽はそれほどでもないが、
術師であるデントはこの森の魔法的力の異変を感じることができた。
人影は見えず、小鳥のさえずりさえ聞こえない。
聞こえるのは木々のざわめきのみ。
しばらく森の小道を歩いた二人は、休むのにちょうどいいくらいの切り株を見つけ、しばし休むことにした。
「ここにいると頭がおかしくなりそうだ」
切り株に腰掛けたデントが言った。
「……そうですか? 拙者は何も感じませんが……」
楽はいたってのんきなものである。
術師やソーサレスなど、魔法力を使うものが感じる異変。
この森で起こっている出来事を二人は知るよしもない。
「あっ!」
デントの腰掛けた切り株を指さして楽が声をあげた。
「デントさん、動かないでください!」
「なっ、なんだよ」
「そこに、デントさんの足元に……」
「だから、何だよ!」
「ワカバカエデが!」
「……は?」
「ですから、ワカバカエデですよ。あの有名な!
今取りますから動かないで下さい!」
そう言うと、興奮気味の楽は剣を抜き、デントの頭上に振り上げた。
「まっ、待て! おまえも頭がおかしくなったのか!?」
慌てるデントにはお構いなしに、楽の剣は振り下ろされ、デントはギュッと目をつぶった。
ズバッ!
赤い液体が辺りに飛び散る。
しかしそれはデントから出たものではなく、楽がワカバカエデと呼んだ植物の根本から勢いよく出ている。
デントには傷ひとつない。
「まさかこんな所で見つかるなんて!」
楽が喜々とした声で、ワカバカエデなる植物を手に取って見ていた。
「な……何なんだよ……俺、死ぬかと思ったぜ」
「あっ、済みませんでした。ついつい夢中になって……」
気が抜けてへたりこんだデントに、何事もなかったかのように楽が答える。
その顔は今までに見たこともないほど嬉しそうだ。
「見て下さいよ、これ。ワカバカエデですよ!
あの究極の薬草とまで言われる、薬草の中の薬草、ワカバカエデ。
拙者は師匠の書物の中でしか見たことがなかったので今まで半信半疑でしたが……まさかこの目で見られるなんて!」
珍しくまくしたてる楽、そして驚きと安堵でものも言えないデント。
「おまえ……薬草マニアか……?」
ようやく二人がいつもの二人に戻った時、デントが楽に訊ねた。
「いえ……。
……でも、もしかしたらそうかもしれません。
拙者が小さい頃から両親は剣を創っていましたので、あまり構ってはもらえなかった記憶があります。
何か楽しいことを見つけようと思って、町の薬店に押し掛けては、毎日薬草を見ていました。
そのせいかもしれません。
見たことのない薬草を見つけるとつい興奮してしまって……」
「へぇ、そうなのか……。面白いな、おまえ。
なかなかいないぜ、薬草マニアなんて」
「なかなか奥が深いんですよ、薬草も。
師匠の書物を見ながら、剣の道をとるか薬草の道をとるかで悩むこともしばしばありましたから」
「…………」
楽の意外な一面だった。
その切り株で二人は十分に休息をとった。
いや、とりすぎたのかもしれない。
辺りは暗くなり始めていた。
レブル森の夜は早い。
密集する木々が陽の光を遮るからであろうか、それとも、時間の感覚がおかしくなったのであろうか、普段の感覚ではまだ太陽の昇っている時間である。
二人は不思議に思いながらも、今夜の野宿場所を探しはじめた。
「また野宿ですね」
「ああ、いつの間にかな……やっぱりこの森はおかし……
ドゴ〜〜ン!
バン!
バチバチッ!
ビュン!
ドカッ! ドカッ!
バン!!
な、なんだ!」
森の奥から爆音が響いてきた。