「楽、どけッ、いくぞ!」
地面を覆うように積み重なったドラゴンフライ達の中心に楽はいた。
驚くほどの数を斬ってきたにもかかわらず、その呼吸は全く乱れていない。
楽はデントからの合図で素早く脇に飛び退き、それを見て取ったデントがすかさず叫ぶ。
「サラマンダラッ!!」
デントの横の、何もない空間が歪んだ。
その歪みはだんだんと大きくなり、デントの背丈と同じくらいにまで膨らむと、突然、強烈な光を放った。
その光にこらえきれずにドラゴンフライ達は後退し、楽はそれに乗じてデントのもとに向かう。
辺り一面、今までに感じたことのないような熱波に包まれ、デントのすぐ横にはいつの間にか燃えるように赤い龍が現れていた。
「ダン’ドゥー!」
楽がこちらにやって来たのを確認したデントはそう言い放つ。
と同時に、赤い龍がうねりながらゆっくりとレッドドラゴンフライ達の方に向かって動き出した。
赤い龍の体に触れたものは一瞬にして燃え上がり、塵となって風に舞う。
ドラゴンフライ達は洞窟の奥へ奥へと逃げようとするが、もう遅い。
「ダン’ジェラス’ドゥー!」
デントのその言葉が全てを終わらせた。
赤い龍は大きく息を吸い込み、真紅の炎と共に息を吐く。
その炎は洞窟の奥まで広がり、洞窟内を昼のように明るく照らしたが、レッドドラゴンフライの姿はもうそこには無かった。
黒い塵が辺りに舞い散る。
「まっ、こんなもんだろ……」
空っぽになった洞窟の奥を見つめながら何事もなかったかのようにデントは言ったが、莫大なパワーを使ったためか、すぐにその場に倒れ込んだ。
慌てて楽はデントを支え起こす。
「チッ、またかよ……。俺も…まだまだだな……。
楽……すまないが俺はしばらく動けない。
あとのことは……よろしく頼…む……」
言い切ると、デントの頭を支える楽の腕にずっしりとした重さが加わり、煌々とした光をたたえていた赤い龍がうっすらと闇にとけて消えた。
そして、たいまつの弱々しい光がぼんやりとその存在を示しはじめ、辺りは静寂に包まれていった。
もう羽音は聞こえない。
「……まったく、すごい人だ……」
楽は気絶したデントの腕を自分の肩にかけて支え、何事もなかったかのように変わらず壁に掛かっているたいまつを片手に、まだ塵の舞っているその場をあとにした。