「おまえさん、召喚術をつかえるのかい!」
デントがこくりと浅く頷いた。
「ひょぇ〜〜〜! 仰天じゃわい。わし、驚きすぎて倒れそうじゃ」
さっきまでのコネッカはどこへ行ったのか、いつのまにかいつもの調子に戻っている。
「俺が召喚術使って悪いかよ……。どうせ俺には似合わないよ!」
「いやいや、すまんのぉ。
古の術をおまえさんが使えるなんて思ってもみなかったでの。
しかし、なんでおまえさんが召喚術なんて覚えておるんじゃ?」
コネッカが、いぶかしの眼差しをデントに向ける。
「俺は……ドラゴンが苦手なんだ。
だから、それに代わる何か大きな力を手に入れないといけなかった」
「……わけがわからんぞぃ」
「たしか、デントさんの御両親はドラゴン使いでしたね」
コネッカに教えるように楽が割って入る。
「なんじゃ、なんじゃ! わしには秘密で、連れは知っているんかの! なんかズルイのぉ。わしだけ仲間外れじゃ!
くやしいのぉ、みじめじゃのぉ……」
結局、楽の親切は逆効果に終わり、酒場町でデントが楽にした話をもう一度繰り返すことになった。
「……っという訳だ。もういいだろ。早くしないと夜になっちまう」
「そうですね、夜になるとドラゴンフライが外に出てしまいますから。
それではコネッカさん、ここで待っていて下さい。
拙者とデントさんとで、できる限りのことをやってみます」
「すまんのぉ、こんな老いぼれのために……。
わし、嬉しすぎて倒れそうじゃ」
「気にするなって。
今まで町を守ってきたばあさんにできる唯一の恩返しなんだから。
よし! 楽、いくぞ! 久しぶりにひと暴れしてやるぜ!」
「待つんじゃ〜! これを持っていくんじゃ〜」
走りだした二人をコネッカが呼び止め、何やら光るものを投げてよこす。
丸く弧を描いて、それは二人の手元に落ちてきた。
「おい、楽! これ、ヴァルキリーの羽だぞ!」
銀色にぼんやりと光るその羽は、金の留め金でまとめられており、どこか懐かしいような暖かみを感じることができた。
「サンキュー、ばあさん! すぐに戻ってくるからそこで待ってろよ!」
嬉しそうに手を振るコネッカを背中に、二人は奥へと進んで行った。
そして……
好んで聞きたくはないあの羽音が聞こえてきた。
たいまつの光に照らされた、無数の赤い羽根が目に飛び込んでくる。
「拙者が切り込んで道を作ります。
デントさんはそこに入って詠唱をお願いします」
「よしわかった。頼むぜ! いっちょスゴイやつを呼んでやるからな」
「では……行きます!」
楽の剣が抜かれた。
壁に掛けたたいまつの光を反射して、流れるように剣が舞っている。
その舞いにあわせて、ドラゴンフライが次々と地面に落ちてゆくのが分かった。
その様子に見とれながらも、デントは詠唱を続けている。
召喚術の一番の欠点は、詠唱が魔法よりも長いことである。
古の術と言われるように、今では術を使えるものが少なくなっている。
その因は、アカデミーによる魔法の台頭と、古の言葉の衰退にある。
人々は古から続く強大な力よりも、利便性のある魔法を選んだ。
召喚術師たちは細々と暮らしながら後継者を求め伝え、あるいはその術を伝えることなく世を去っていった。
デントはドラゴン使いである両親の元を離れ、ラジアハンドの険しい山に住む召喚術師を訪ねた。
ドラゴン使いである両親に負けないため……強くなるために。
そして、厳しい修行を乗り越え、難解な言語を学び、力を手に入れた。
古の召喚術を。
そして今、デントの詠唱が終わろうとしていた。