ファンタジア

在村楽15

「おまえさん、召喚術をつかえるのかい!」
 デントがこくりと浅く頷いた。
「ひょぇ〜〜〜! 仰天じゃわい。わし、驚きすぎて倒れそうじゃ」
 さっきまでのコネッカはどこへ行ったのか、いつのまにかいつもの調子に戻っている。
「俺が召喚術使って悪いかよ……。どうせ俺には似合わないよ!」
「いやいや、すまんのぉ。
古の術をおまえさんが使えるなんて思ってもみなかったでの。
しかし、なんでおまえさんが召喚術なんて覚えておるんじゃ?」
 コネッカが、いぶかしの眼差しをデントに向ける。
「俺は……ドラゴンが苦手なんだ。
だから、それに代わる何か大きな力を手に入れないといけなかった」
「……わけがわからんぞぃ」
「たしか、デントさんの御両親はドラゴン使いでしたね」
 コネッカに教えるように楽が割って入る。
「なんじゃ、なんじゃ! わしには秘密で、連れは知っているんかの! なんかズルイのぉ。わしだけ仲間外れじゃ!
くやしいのぉ、みじめじゃのぉ……」
 結局、楽の親切は逆効果に終わり、酒場町でデントが楽にした話をもう一度繰り返すことになった。

「……っという訳だ。もういいだろ。早くしないと夜になっちまう」
「そうですね、夜になるとドラゴンフライが外に出てしまいますから。
それではコネッカさん、ここで待っていて下さい。
拙者とデントさんとで、できる限りのことをやってみます」
「すまんのぉ、こんな老いぼれのために……。
わし、嬉しすぎて倒れそうじゃ」
「気にするなって。
今まで町を守ってきたばあさんにできる唯一の恩返しなんだから。
よし! 楽、いくぞ! 久しぶりにひと暴れしてやるぜ!」
「待つんじゃ〜! これを持っていくんじゃ〜」
 走りだした二人をコネッカが呼び止め、何やら光るものを投げてよこす。
 丸く弧を描いて、それは二人の手元に落ちてきた。
「おい、楽! これ、ヴァルキリーの羽だぞ!」
 銀色にぼんやりと光るその羽は、金の留め金でまとめられており、どこか懐かしいような暖かみを感じることができた。
「サンキュー、ばあさん! すぐに戻ってくるからそこで待ってろよ!」
 嬉しそうに手を振るコネッカを背中に、二人は奥へと進んで行った。

 そして……
 好んで聞きたくはないあの羽音が聞こえてきた。
 たいまつの光に照らされた、無数の赤い羽根が目に飛び込んでくる。

「拙者が切り込んで道を作ります。
デントさんはそこに入って詠唱をお願いします」
「よしわかった。頼むぜ! いっちょスゴイやつを呼んでやるからな」
「では……行きます!」

 楽の剣が抜かれた。
 壁に掛けたたいまつの光を反射して、流れるように剣が舞っている。
 その舞いにあわせて、ドラゴンフライが次々と地面に落ちてゆくのが分かった。
 その様子に見とれながらも、デントは詠唱を続けている。
 召喚術の一番の欠点は、詠唱が魔法よりも長いことである。
 古の術と言われるように、今では術を使えるものが少なくなっている。
 その因は、アカデミーによる魔法の台頭と、古の言葉の衰退にある。
 人々は古から続く強大な力よりも、利便性のある魔法を選んだ。
 召喚術師たちは細々と暮らしながら後継者を求め伝え、あるいはその術を伝えることなく世を去っていった。

 デントはドラゴン使いである両親の元を離れ、ラジアハンドの険しい山に住む召喚術師を訪ねた。
 ドラゴン使いである両親に負けないため……強くなるために。
 そして、厳しい修行を乗り越え、難解な言語を学び、力を手に入れた。
 古の召喚術を。

 そして今、デントの詠唱が終わろうとしていた。

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