「人……かな?」
リーザは小声でシェプシに話しかけながらそこに近づいていった。
もしかしたらもしかすると、水や食料や毛布などを持っている可能性もある。リーザは最初からそれを「いい人」と断定していた。彼女は地図など持ってきていなかったし、今も自分の第六感を信じて砂漠を横断していた。そしてその第六感が、「あの人影はいい人に違いない」そう彼女に告げていた。
と、突如目の前を数人の男達がそろそろと通り過ぎたのに彼女は気づいた。
何やら話していたかと思うと、彼らはふいにその旅人に襲いかかった。リーザははっとして、助けにいこうかと思ったが、どうやらその必要は無かった。
その人物はあっという間に数人の大男達を倒していたからだった。
また少し何かを話して、男達が去っていくのが見えた。
「……強い人のようね。どうする? シェプシ」
といちおうリーザは問いかけてみたが、もう答えはとっくに出ていた。
本当はすぐにでもおじゃましたかったが、この暗い中、顔も見えないのに急に近づくのはどうかと思い、その夜はそこの近くで野宿することにした。
翌朝。
彼女が目覚めたときには、もう旅人は出発していた。
リーザは、明け方頃にシェプシがしきりに自分を起こそうとしていたのを思い出した。しかし、あまりの寒さと眠さで彼女は犬を無視していたのだ。
そんな自分を呪いながら、彼女は立ち上がり歩き始めた。
足はもうガクガクしていて、とても長くは持ちそうにない。
その上始終当たってくる太陽にか、頭はズキズキしていた。
「砂漠ってもっと幻想的なモノだと思ってたのにな」今日もまた変わらずに暑い日が続きそうだった。
驚いたことに、旅人はだいぶ前を歩いていた。
彼女はあのフラついていた(ように見えた)旅人が、速めの速度であるく自分よりも前を歩いている旅人が信じられなかった。
しかし、フラついてるのは彼女の思い違いで、明るい太陽の下で見ると旅人はしっかりした足取りをしていた。
青い髪を1つに束ねたその旅人は、不思議な格好のように見えた。男性のようだが、後ろから見た感じではきゃしゃなふうに見えた。
彼は後ろなど気にせずスタスタと歩いている。
日が昇るに連れ、彼を追うのが困難になってきた。
そして真昼時。目の前が大きく回ったかと思うと、彼女はひざをついて砂の中に倒れ込んだ。意識は無かった。
次に目が覚めたとき、彼女は三角の天井を見ていた。
どこだろう。砂漠に日陰なんてあるのだろうか……。
もうろうとした意識の中で、そんなことを考えているうち、声が聞こえた。
「大丈夫ですか?」
いつの間にいたのだろう。あの旅人の少年が傍らにたたずんでこちらを見ていた。
すぐ横にはシェプシが心配そうな顔でこちらを見ている。
「えっと……? お名前は?」
リーザの動き出した頭はまずそうささやいた。名前を知らなければ何も始まりはしない。彼女はそう聞いた。
「楽です。……リーザさんですね。はじめまして」
「? 私、名前言ったかなぁ……」リーザは小首をかしげた。
寝言でも言ったのだろうか。すると突然楽が笑いだした。
「槍に名前が書いてありました。しかし、まず名前から聞くなんてなぁ。
頭は痛まないんですか? 足は?」
そう言われてリーザはまだ体中が痛いのを思い出した。「うっ」とうめき声をあげた彼女のすぐ横に、食事と水を置いて、楽が言った。
「もうしばらく安静にしていた方がいいですよ」
少しして、リーザがテントから出てきた。
楽は彼女の回復力に驚いていた。
「驚いたな……。体はもう大丈夫なんですか?」
「うんっ、全然おっけーだよ! 楽ちゃんがいて良かったよ」
楽は「ちゃん」付けで呼ばれたのには驚いたようだ。
「僕は男ですが……」「うん、知ってるよ。楽ちゃん、男の子だって分かるよ」
「あの、ちゃんって言うのは……?」
「え? ああ、だって何だか楽ちゃんって感じじゃない♪」
喋りながらリーザはよく笑った。本当に楽しそうだった。