ファンタジア

リーザ10

 楽と別れ、リーザは町中をつっぱしっていた。
「トイレ〜とっいっれぇ〜〜〜!!」
 そう、彼女はトイレを探していた。楽と会話したときくらいから彼女はお腹の調子が悪くなっているのに気づいていた。あのときは気のせいかな〜と思っていたが、今はとてもそんな呑気な気分じゃない。
 初めて来たこのワジュールでは、どこに何があるのか分からない。
 楽ちゃんと別れなきゃよかったぁぁぁ! そう思いながら走っていた。

 しかし、限界がきていた。
 リーザ(とシェプシ)はすぐ近くにある民家に飛び込んだ。
 さすがに砂漠にある街だからか、扉も木製などではなく簡素な布1枚が垂れ下がっているだけだった。勢いこんで入ってみると、中にはいかにもシーフです!っていう顔の夫婦がいた。
 驚いてか、目を丸くしてこちらを見ている。かまわずリーザが言った。
「あ、あのっ! おトイレ借りれますか!? すみませんっっ!!」
 夫婦はとても驚いてはいたが、トイレを貸してくれた。
 落ち着いた彼女は、あらためて2人を見た。そして、お礼を言った。
 二人がまだワケが分からないという顔をしていたので、彼女はこれまでのいきさつを2人に語った。聞いて、2人は笑い出した。
「あはははは。そりゃあそうよ。ココの料理って変わっているでしょう?
 特に、ジュラルミンさんとこはねぇ。外から来た人たちにはつらいかもねぇ」
 妻の女の人が笑っていった。男の人もおかしそうにリーザを見ている。
 女の人が言った。
「そう、リーザちゃんっていうの。楽さんかぁ……知らないわね。
 ここは噂好きの人が多いから、そんな珍しい格好してるならすぐ話題に 昇るハズだけど……。え? ヘステイア? エルファ? さぁ……
 聞かないわねぇ」
 よく喋る奥さんとは対照的な、無口な旦那さんが初めて口を開いた。
「血のニオイ……。あんた、怪我してるのか?」
「えっ? してないです。……あ、これかも」
 そう言って彼女は自分の服を取り出した。血が固まって、黒くなってきている。

「まぁまぁ! なんてことでしょうね!」
 奥さんが悲鳴をあげた。信じられないという顔つきだ。
「全く、年頃の女の子が何やってるの? ヘビ? あら、そんなものこの辺りじゃしょっちゅうウロついてるわよ。これは急いで洗わないと落ちなくなるわよ!
 そうなの、だからそんな暑苦しいローブ着てるのね。いいわ、私が若いときの服を貸して上げる。ホラ、早く着替えた着替えた!」
 蒸しているローブを脱ぎ、奥さんから手渡された服を見て、リーザは
ちょっとビックリした。露出度がもの凄く高い。
 肌の出ている服装は嫌いじゃないが、さすがにここまでは……
 そう奥さんに言うと、奥さんは、似合うと思ったのにぃなどと言いながらも違う服を持ってきてくれた。
 こちらも露出度が高いが、さっきのよりは幾分マシだった。
 それを着て出ていくと、奥さんが顔中に笑みをたたえながら誉めた。
「まぁ〜! よく似合うわよぉ、リーザちゃん! うんうん、最高〜!!
 あたしこの頃太ってて着れなかったのよね。だからとても羨ましいわぁ」
 これ以上ここにいると話が長くなりそうなため、彼女はそうそうに立ち上がって言った。
「あの、服貸して頂けて嬉しいですけど、私、宿屋探さなきゃだし。だから……」
 うむまで言わせず、奥さんが立ち上がって言った。
「あら。宿なんてとったらお金かかるじゃないの。ウチへいらっしゃいよ。
 私達、最近結婚したばかりなんだけど、あのヒト全然しゃべらないし。だから今、つまんないのよね。どう、リーザちゃん」
 願ってもない事だった。どっちにしろ宿で寝るか野宿するか考えあぐねていたところだからだ。彼女は即答で答えた。
「ぜひお願いします〜〜〜! やったぁ〜」シェプシが一声吠えた

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