「…追跡の瞳?」
「そ。見た事ないかしら? それか聞いた事でも許すけど」
「悪いが…ない、な」
「……次に行こう」
「エルファ君、早いよー」
とりあえずワジュールの情報屋をいくつか回っているのだが、5軒目を回った今でも何もつかめていなかった。
「あのさ〜、やっぱりもうこの町を出てるのかもよ」
表通りを歩きながらヘスティアが言った。
まだ日も高く人通りも多いのだが、夜はちょっと危なげな人間がちらほら出始め、まともな者は一人では外を出歩けない。
「仕方ないよ。次の所へ行こう」
数分後――
「…で、聞きたいんだけど」
「何よ?」
「何で僕らが追われてるのかなっ!?」
「知らないわよ――っ! 向こうが追いかけてるから逃げるまで!!」
2人がしばらく歩いて新たな情報屋を見つけ、追跡の瞳の事を尋ねた途端、店の奥にいたらしい強面の男達が5人ほど出てきて…現在に至る。
「何かいけない事聞いたー?」
「そんな事いってる場合じゃないわよ、これはっ――っ!!」
とにかく2人は走り回る。うっかり裏道に入らないように、人通りが多いところを走りつづけた。
裏道に一歩入ったが最後、どうなるか分かったものではない。
だからそのうち人ごみみ紛れて逃げる―――はずだったのだが。
「ってああっ!? 行き止まり!?」
気が付いたらなぜか袋小路にいた。
いつの間にか…結局裏道に入っていたらしい。
「このままじゃ追い込まれて終わりだと思うんだけど」
「こうなったら逃げるか戦うかじゃない?」
「…逃げた方がいいと思うよ」
「そうね。じゃあそれ採用。幸いまだあいつら追いついていないみたいだし」
そう言ってヘスティアは周りを見回した。
「…この壁を乗り越えていくしかなさそう」
後ろの高い壁を見てエルファが言った。
「それしかないか…戻るにしても前の分かれ道までけっこうあったし」
「でもこの壁は…自力じゃ登れないよ、えらく高い」
「…。大丈夫、ここなら羽を出しても人いないよ」
「………そうかな…」
怪訝な顔をするエルファ。
「それにこのままだとやばいし」
「………分かった……」
エルファがヘスティアはどうするのかと聞こうとした時、遠くから足音が聞こえた。
「ほら、来るよ。行かなきゃ」
ヘスティアがせかした。
「私なら平気だって。飛べるから」
エルファはその言葉に耳を疑った。
今、何て言った?
「飛…」
「さっ、早く!!」
足音がどんどん近づいてくる。
もう50mも離れてはいないだろう。
とにかくエルファは翼を出した。白い翼が広がる。
珍しくずっと黙ってエルファの肩にとまっていたシェーナが頭に移った。
「OK。行こう」
「待ってったら。飛べるってどういう…」
ヘスティアが目を細めた。
「――!」
エルファが目を見張った。
ヘスティアの背中から――
エルファはそれを、見た事があった。
ただし、本で。
竜族は普段は人間を同じ姿だが、竜へと姿を変えることができるという。
本にその竜の絵が載っていたが、エフルァが今見ているものと――
同じものが載っていた。
「…翼?」
ヘスティアの背中にあるものがはえていた。
竜の…翼。