ファンタジア

エルファ19

「ん……んん?」
 眠りから目覚めたエルファが一番最初に見たのは、薄暗い天井だった。
 隅っこには蜘蛛の巣が張っていた。
 エルファの手の中には暖かい感触。
(シェーナ……)
 シェーナはまだ眠っているのか、目をつむってエルファの手の中に収まっていた。
(良かった、無事だったんだ。シェーナも、僕も……)
 エルファがシェーナを抱き直したとき。
「あ、起きた?エルファ君」
「……ヘスティア?」
「そうよ」
 ベットの傍らに椅子を置いて座っているヘスティアの手には赤いリンゴ。
 おいしそうだ。
 エルファの「食べたい」という気持ちを悟ったのか、ヘスティアは悪戯をしてみようと思った。
「エルファ。これ食べる? 結構いけるよ」
 とヘスティアが差し出したのは、青色の木の実、『ユバキの実』だ。
 エルファは、「これリンゴじゃない」と思いながらも、二、三個を口の中に入れ、噛み砕いた。
「う………」
 エルファは思わず声を出し、顔をしかめる。
「うう゛〜ヘスティア〜、これまずい゛〜…」
 ヘスティアは、エルファの単純な表現に、ニヤニヤと笑った。
 そのヘスティア見て、エルファは気づいた。
「ヘスティアこれまずいのしってたでしょ?」
「うん。知ってたわよ」
「………非道い」
 シェーナはいつの間にか目を覚まし、顔をしかめるエルファをじっと見ていた。
 エルファは、シェーナの頭を撫でると、はっと気づいた。
「ねぇ、ヘスティア! 楽は? 楽は居ないの?」
「……あんたねぇ、悩む順番が違うでしょ、順番が!」
「え? 何?」
「まずはここがどこだか悩みなさい」
「そんなことより楽は?!」
「……楽は解らない。ここはワジュール。私達は拾われたのよ。楽は……まだ砂漠にいるかもしれない」
「えっ!」
 驚くエルファ。
 エルファは淋しそうにうつむいた。
 ヘスティアは慌てて慰めに入る。
 しかし、ヘスティアは『慰め』とかそういうのは慣れてなかったが。
「ああ、落ち込まないで。こっちまで気が滅入っちゃう。楽は大丈夫よ。私達よりしっかりしてるから」
「そうだね」
 そうは言ったが、エルファは呆っとしていた。
「エルファ! 大丈夫! ……今日は、ワジュールの町を回って見ようよ」
「うん。その前に、ここってどこ?」
「俺、ブルムンクスの店だ」
 三人分のパンとミルクを持ってきたブルムンクスが、エルファの質問に答えた。
 エルファはいつだったか、楽にブルムンクスの話を聞いたことがあった。
「え! ブルムンクス! ……さん」
 ブルムンクスからパンとミルクをもらい、エルファは聞いた。
「あ? 逢ったことあったか? 坊ちゃん」
(ぼっ…坊ちゃん…)
 聞き慣れない言葉にショックを受けながら、エルファは頭を抱えた。
「えっと…何だったかな? 楽から聞いたことあるんだけど……『何とかの瞳』っていう宝石……」
「それ『追跡の瞳』か?」
「そう! そうそう!」
 完全に忘れられてるヘスティアは、二人の会話に耳を傾けるだけだった。
 二人の会話は続く。
「それ、ここにある?」
「おうあるぞ。……いや、あったぞ」
「え? 今は無いの?」
「……盗られたんだ」
「盗られた?!」
 エルファは残念そうに息を吐くと、数秒後「よし!」と大声を出した。「ど…どうしたのよ」
「ねぇ、ヘスティアさん。楽がワジュール、ここに着くまでに『追跡の瞳』を取り返そうよ!」
 ヘスティアはいきなりな話の展開に、唖然としたがすぐに冷静になった。
「ねぇねぇ」とせかすエルファに、言った。
「私はいいけど。手がかりとか無いのよ? もしかしたらワジュールを出てるかもしれない」
 ヘスティアの心配をよそに、エルファは片手にミルクの入った瓶を持ち、そのままぐびぐびと飲み干した。

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