「……あの、防具屋って何処ですか?」
背後からかかった声に、フォルクスはぎょっとした。なにしろ、追っ手をレイチェルの魔法で強引に捲いてきたばかりなのである。
声の内容は意識を素通りして何処かへ行ってしまい、それが若い女性…というよりも少女の声の声だということを認識するまでもいくらかの時間がかかった。
やや動転しながら、フォルクスは被っていたマントのフードを払いのけながら声の主の少女へ向き直った。
「…悪い、なんだった?」
言葉を出すと少し落ちついた。すると、次におや、と思った。
違和感がある。そう、フォルクスの顔を見た少女の表情が変わらなかった。
始めてフォルクスの姿を見た人間は大抵、表情が何らかの反応を示す。例えば休息の連れとなったアルフェリア・ノーティスのような、驚きを伴った注視。あるいは、酒場で出会った、さして珍しくもない子供を諌める姿に敢えて反応したあの騎士のような、何もしない事が意外という皮肉げな反応。レイチェルのようにはっきりと口に出す者こそ滅多にいないが、これが女子供であれば気味悪がられたり泣き出されたところで無理はないと思っている。
全く反応が無いというのは、逆に妙に居心地が悪い気がした。
「はい…あの、防具屋って何処ですか?」
繰り返された少女の言葉に、フォルクスは困ったような顔をした。半ばはそのまま、半ばは呆れた表情を隠すためのカモフラージュのためである。
「防具屋って、鎧とか胸当てとかの防具か?」
判り切ったことを聞き返しながら、それとなく、改めて相手の身なりを見る。良家のお嬢さま、というのがその印象だった。とてもそういう物に縁がありそうには見えない。
フォルクスは、ちらりとレイチェルに目を走らせて、軽く息をついた。
(何やらわけあり、か……どうしてこう…)
「ちょっと待ってくれ…その前に……そもそも、何処へ跳んできた?」
これはレイチェルへの質問である。
「さあ〜…なにしろ急でしたし〜」
「実験中とかいってたな……つまり、どこへ来たのか判らんのか」
見渡すと、もうあたりは暗くなっている。薄暗い森の入り口は、なんとなく見覚えがあった。
(…なんだ、アスリースの……レブルの森じゃないか)
たしかすぐ傍に町があったはずだ、と頭の中で簡単に地図を組み立てる。
「防具もいいが、もう日が暮れるぞ。店へは明日、案内するから町へ行って、取り合えず宿をとらないと」
「でも……」
「こっちにも連れがいる。女の子が一人も二人も大して変わらんさ…」
「あ、私、レイチェルっていいます〜」
(この馬鹿娘!)
頭の中で、フォルクスは怒鳴りたいのを必死で押える。ラジアハンド騎士に追われている身だという自覚が、彼女には無さ過ぎるのではないか。
「俺はフォルクス。通りがかったのも何かの縁だ。他にあてがないなら、宿代くらいは面倒を見るから、とにかく一緒にくればいい。女の子が一人歩きしてる時間じゃないぞ」
それから、フォルクスは不意に、結局、『在村の宝刀』を一緒に持ってきてしまったことに気がついた。