ファンタジア

クロスド7(仮面と少女と竜使い4)

「……海……だなぁ……」
「……海……ねぇ……」
「……今日で何日目だ?」
「……一週間経ってから数えるの止めたの……」
「………………」
「………………」
「……海……だなぁ」
「……海……ねぇ」
 最も船旅にあこがれを持っていた二人組――いや、一人と一匹はもう現状に厭きてきてていた……。

 

 リエルの朝はそれなりに早い。
 ベットの中から重い体を無理矢理とも言える意思で動かす。
 そして、身体を引きずると言っても過言ではない動きで洗面所へ。洗顔のために鏡を覗くとそこには日頃凛々しいと言える顔つきはなく、年相応の眠たげな少女が居るだけだ。
 かつて友人に日頃とは別人のようだ、と指摘されたが別に誰かに見せるつもりは無いのでこのままで良いと思ってはいる。もっとも今後の確証はないが。
 洗顔をし、髪を整える。基本的に外見には気を回さない方だがそれぐらいは一般常識だ。
 指先を、そして頬を冷たい水の感覚が走る。ぱしゃぱしゃと何度も水を受け、顔が引き締まっていくのが判る。眠気も完全にはれ、再び鏡を目にするとそこにはいつもの自分。
 タオルで水気を拭き、寝間着を脱ぎローブに腕を通す。そしてサークレットを身につければ着替えも終わりだ。
 換気のため窓を開けると、潮の香りと海の湿り気。これで本当に換気になるのかと思いつつドアを開け部屋を出る。取られて困るモノなどありはせず――最も物取りがでるほど人は居ないが――それ故鍵を掛けずに目的地へ足を進める。
 一般客室には、彼女を含め三部屋しか使われておらず、船の揺れ以外に物音は無い。
 船の揺れは初めは慣れなかったが三週間も過ごせば普通に生活できるようになった。
 少しばかり歩いて目的地へと着く。
 ドアを開け中を覗くとがらがらに空いた食堂。その中で一人ぽつんと座っているクロスド。
「よ、嬢ちゃんおはよう」
 彼はリエルの存在に気が付くと今まで目を通していた雑誌から目を離し、声を掛けてくる。
「何を読んでいるんだ?」
 そう言って彼と同じテーブルに腰掛ける。別に自分たちしか居ないのだから何処に座ったとしても良いし、わざわざ同じ席に着くことも無いだろう。などと初めは思っていたリエルだが最近は話をするのだから別の席に座るのは面倒だ、などと思い始めてきた。
「こういうの」
 クロスドが表紙をリエルの目に見えるように上げるとそこにはリエルが日頃低俗なゴシップ紙、と嫌う雑誌のタイトルが書いてあった。
「……またそう言うのを読む……」
 苦虫を噛み潰したような表情のリエル。それに対しクロスドはひょうひょうと対応する。
「いや、これだってそうバカにしたもんじゃないさ。普通とは違った見方で物事を考えてるんだな。ほら今号なんて“歌う亡霊”についてなんだぞ。統計を取った結果、“歌う亡霊”の被害にあった船はロポポから出た船だけであって、ロポポに入ってくる船には被害が無いんだ。そこから推理するに“歌う亡霊”はある海路を通った船ではなく、ロポポから出航した船を攻撃目標にしているってな。だったらこの船も危ないな〜」
 まるで、子供のように楽しげに話すクロスド。しかしリエルは知っている、この男はその雑誌の内容を全く信用しておらず、一つのフィクションとして楽しんでいると言うことを。
「…………あ〜、腹減った。今日の朝飯は何だ〜」
「…………ちょっと、今日はあたしの分も残してよね〜」
 甲板側からそんな話し声が聞こえ、そして小さなドラゴンとそのマスターが食堂へと入ってくる。
 これがココしばらくの彼らの日常だった……。

©ファンタジア