ファンタジア

ブレス5

 皆様こんにちは。今回は私事ではありますが、自慢を一つ。俺が着ている洋服はなんとオートクチュール。俺にはピッタリきていると思いませんか? これに剣を携えているわけですが、悲しいことに腕がない。ババーには遺言のように「騎士にはなれん!」なんて言われ師匠になんて言えばいいんでしょうか??

「リットちゃんがんばれ!!」
 俺は剣を抜く覚悟をした。しかしくどいようだが勝てる気がしない。が、時間かせぎぐらいにはなるだろうか?? ひづめの音は木々が茂ろうがやむことはなかった。心臓はバクバクと波うち、剣を握る手は汗ばんでくる。ブーツが重く感じるし、カバンは俺の邪魔をするかのように引っ付いてくる。リットちゃんも疲れてきてるのが走っていても俺に引きずられるようになってきた。俺は走ることを諦めた。ここをもし切りぬけても追われる身となるのだろうか?? 俺はリットちゃんを背中にかばうように身をひねった。
 剣をおもいっきり引き抜きかまえ迎え打とうとしてふりかえると、
「!!!!??」
 目の前には馬に乗った騎士がいるはずが、そこには人より一回り大きい怪物がいた。
「ドラゴンだ!」
 騎士達が急停車をし、たじろいている。ドラゴンが背中を見せて騎士達に唸っていた。馬が落ち着きを失い今にも暴れ出しそうだった。必死に馬をおさえる騎士。そしてしなやかな筋肉がついているトカゲが大きくなったような体。
 みなさんにはティラノザウルスと言えばピンとくるだろうか? あんなようなかんじだ。騎士は勇敢にもドラゴンに立ち向かうようだ。しかしかまえは隙だらけだった。
 並の腕に毛がはえたぐらいの俺にも隙がわかるほどの隙。動揺があったのだろう。白く透き通るような白さのそのドラゴンは深紅に燃える瞳をジッ騎士にむけ、好戦的に低く空気が震えるだけで耳には届かないような声で唸り、その口には、炎がチラチラと見え隠れしている。
 すごい。ドラゴンという生き物はいるとは聞いていたがこんなに迫力があり恐ろしいものだとは思いもしなかった。
 二人の騎士の一人が震える剣先を向けてドラゴンに切りかかった。
 俺でもかわせるその剣筋にドラゴンもやはりかわし、大きく恐ろしくて腰を抜かすほどの声で一鳴きすると木々が振動で震え俺とリットちゃんは後ろに後ずさり、吠えられた騎士達は腰を抜かした。
 辺りは静まりかえった。間もなく俺は森の奥からなにやらユルユルと近づいてくる気配を感じた。リットちゃんはまだ気が付いていないようだ。そして騎士たちも。俺は森の奥へ目をこらすと、細長い蛇のように体をくねらせ木々の間をぬってくる緑色の皮膚に黄色いたてがみをなびかせ、宙をういている生き物が白いドラゴンに答えるようにいなりながら近づいてくるのがわかった。
 暗闇からその生き物は姿を現した。
 リットちゃんは俺の手をいつの間にか握りしめていた。その力はいっそう強くなった。
 例のドラゴンは俺達に目をくれず騎士達に近づいて行った。大きい口を最大に開け襲いかかった。騎士達は手と手を取り合い来た道を走って帰っていった。
 フヨフヨとゆったりと浮いているようだがしっかり騎士達を追い越さない程度の速さでおちょくるように追いかけてった。どうやら、騎士達の手からは逃れたようだ。
 残されたのは俺と、リットちゃんと謎のドラゴン。
 さて、どうする……
「ブレス君、騎士達は行ちゃったよ」
「!!!!」
 俺は腰が抜けそうだった。しかし腰はなんとか抜けずに済んだ。それはリットちゃんが腰を抜かし俺の手を握ったままヘタリこんだからだ。
 なぜこうも驚いたかと言うと、謎のドラゴンが言葉を話したからだ。
「聞いてる?」
 ドラゴンはそう言って振り返った。騎士達に向けていた深紅に燃えた好戦的な瞳は綺麗なピンク色をしていた。
 俺は混乱をしていた。普通ドラゴンはしゃべるのか?? そもそもドラゴンをよく知らないがしゃべらないと決め付けていたのかもしれない。普通はしゃべるのだ(たぶん)。俺はそう言い聞かせることにした。
「まったくブレス君は頼りないんだから。その子まかされたんでしょ? しっかりしなさい。まーこれからは、私がいるから問題はないけどね」
 白いドラゴンは一人(一匹か?)しゃべっていた。俺はおもいきって聞いた。
「どちら様ですか? 面識はないと思うんですが??」
 我ながら間抜けだった。ポカーンとした顔をしていただろう。
「やっだ〜! そうねブレス君おぼれたんだもんね。うん。あれは手を浸すだけでよかったのにィ〜あはははは! はじめましてだね。私はエンペランサ。オスみたいな名前でしょ? やたら強いからだって。失礼しちゃうのよね〜これでもメスよ! けど結構気に入ってるのよ。前のご主人本当にいい人だったし……けど、なんで契約破棄されちゃったんだろう……それにあんな所に閉じ込めるなんてさ……でも恨んでなんかいないのよ。会いたくなってきた……う〜泣きそう……」
 そう言いまくって目からポタポタと涙を流した。
「……………………?????」
 俺とリットちゃんは目を白黒させた。なんなんだ〜〜〜〜????

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