街に戻ってきたアルフェリアはとりあえず宿に行くことに決めた。
砂漠の方へ行ってきたのだから当たり前だが、汗と砂で服は汚れていたのでさっさと着替えたかったのだ。
「すいませーんっ」
扉をくぐりながら声をかけると奥から女の人の声が返ってきた。
「いらっしゃい……ん? あれ、さっきの」
「? おれのこと知ってるのか?」
そんなアルフェリアの返答を聞いて宿のおばさんは豪快に笑った。
「そりゃ、あんだけおおっぴらに聞きこみしてりゃねぇ。あたしの耳には面白い話はすぐに入ってくるんだよ。で、賞金は手に入ったのかい?」
「いや、だめ。逃げ帰ってきたんだよ」
おどけて笑うアルフェリアにおばさんは命があっただけよかったんだとフォローを入れてくれた。
「部屋は開いてる?」
「ああ、開いてるよ」
案内された部屋で早速着替えようとした時だ。
いきなり部屋の扉が開けられた。一応ノックはされたのだが、返事をする暇もなく扉が開けられてしまったのだ。
すでに服を脱いでいたので慌てて手近にあった毛布を引き寄せる。
「下にお客さんが来てるよ」
「お客?」
入ってきたのは宿のおばさんだった。
聞き返すアルフェリアの姿を見てだろうか、おばさんは爆笑した。
「なんだい、そのかっこ」
「いきなり入ってくるからだろ?」
「こんなおばちゃんに見られたからってどうなるもんでもないだろ。下手すりゃあんたのお母さんより年いってるよ、あたしゃ」
アルフェリアの年齢と、今時分の客の少なさのせいだろうか。おばさんの対応はかなり親しげというか、……これが客に対する態度か?と言いたくなってしまう。
「ま、下で待ってるから。できるだけ早く来ておくれよ。役人さんだから」
は!?
おばさんは言うだけ言って扉を閉めてしまった。
後には目を丸くしたアルフェリアだけが残される。
なんで役人!? おれ何にも悪いことしてないぞ?
一応考えてみるがやはり役人に呼び出されるようなことをした記憶はない。
まぁいいや。行けばわかるだろう。
そう結論を出して、着替えを再開する。
ふと、横に置いてあった鏡が目に入った。そこには自分の姿が映し出されている。
あの人達もその辺りは賢いと言うかなんと言うか……。
結構痛めつけられた割に跡になっている傷はほとんど無い。
そんななかでただ一つ。とても目立つ傷痕があった。ぱっと見、痣かいれずみのようにも見えるそれ。先ほど隠したかったのは実はこれだけだ。
半年前、あの噂を耳にするまでは、そこまで神経を使ってはいなかった。
絶対に人に見られないように、そう気をつけるようになったのはその噂を聞いてからだ。
アルフェリアの弟……異父兄弟にあたるランディ家の跡取。彼は生まれつき体が弱かったらしい。周囲から家を継ぐのは無理なのではないかと囁かれているそうだ。
とはいえ、噂は噂。アスリースに近づいてすらいないアルフェリアには真実がわからなかった。だからこそ、用心するのだ。
たとえ確率がどんなに低かろうと、あの家に連れ戻される可能性がゼロでないなら出来る限りその確率をゼロに近づけたかった。
「行くか」
考え事をしながらでも着替えは出来る。
着替えを終えたアルフェリアは小さく溜息をついてから、部屋を出た。
一階に下りるとそこには役人の他に二人の神官騎士がいた。
「レイチェル様の情報をくれたのは君かい?」
「ああ」
そういうことか。
「良かったら詳しく聞かせて欲しいんだが」
騎士の問いにアルフェリアはレイチェルと会った時のことを詳しく説明してやった。いっしょにいたフォルクスとか言う白子のことも。
そうしてしばらく話した後、アルフェリアは彼らと一緒に行くことになってしまった。
フォルクスのせいである。
レイチェルの方は人相書きも出回っているくらいだ彼らも会えばすぐわかる。が、もしもフォルクスがレイチェルと離れてしまっていた場合。
彼らはフォルクスの顔を知らない。白子は目立つからすぐに見つかるだろうが、フォルクスの方はもし見つけても本人がしらばっくれてしまえばおしまいだ。
その点、レイチェルと一緒にいるところを目撃しているアルフェリアがいれば、しらばっくれるのは不可能。
そして、アルフェリアは二人の神官騎士と共に、もと来た道を戻り、西へと向かうことになったのだった。