レイチェルたちを巻き込まないことを考えて宿を変えはしたが、ルークは逃げる気などこれっぽっちもなかった。
それどころか、下手に逃げまわればその間に連絡されて、事態がさらに悪い方へと転がりかねない。
出来るだけ早く、あの刺客を倒さねばならないのだ。
一番手っ取り早いのはこのままコロシアムに参加し続けてこっちの存在をアピールしてやること。
どこにいるのかわかっていれば向こうも襲いやすいだろう。
ただ、その場合ルーク自身は棄権することになる。そんな手を使う気ならば出来るだけアルの近くにいてアルを守ってやらねばならない。
「ルーク?」
考えにふけっていたルークを見上げる様にしてアルがこちらを見た。
言うべきかどうか……。ルークはそいつを直接見てはいないが、その時の状況はアルから聞いた。
普通ならばアルでも充分……いや、魔法を使えば100%勝てる相手だ。
が、多分実際にはそうはならないだろう。
アルは慣れていないのだ。……命のやり取りというものに。
例えば、賞金首と闘う、その辺のごろつきと闘う……そういった者ならば問題ない。アルは自分の実力をちゃんと把握しているし、危なくなればすぐに逃げる。
けれどアル自身を狙った刺客となれば話は違ってくる。
逃げても追いかけてくるのだ。そういったタイプの不安にアルは極端に弱い。
多分、ランディ家で長期間の間、命の危機という見えない恐怖に苛まれていたことが原因だろう。
アルはそういった恐怖を感じた時に楽に逃げる方法を知ってしまっている。感情がなければ恐怖を感じない。完全に感情を消すことは出来ずとも、何も感じないように心を閉じてしまうことは出来るのだ。
本人にその辺りの自覚がないのがさらに困りものだ。
実際、アルは気付いてない。ルークといる時と、ルークがいないときで精神年齢に大きな開きがあることを。ここまでいくと二重人格に近いかもしれない。
そんな逃げ方はさっさと忘れて欲しいと願う反面、そうしなければ生きてこれなかったアルの生活環境を憎らしくも思った。
「何でもないよ」
ルークはそう言って、また考え事に没頭し始めた。
何でもない。
ルークはそう言ったが、アルフェリアにはとてもそうは見えなかった。
けれどルークがそう言う以上、自分が何を言っても答えてはくれないだろう。
ルークの言う事だからとりあえず大人しく聞いているが……
本当はちょっとむかついてもいるのだ。
ルークが何も話してくれないことに。
――その日の夜――
アルフェリアはルークが寝ている間にそっと宿を抜け出した。
あの襲撃が原因なのはわかっていた。
自分が狙われていることを――ひいては自分がランディ家の人間であることを知られたくなくてレイチェルが襲われたのでは? などと言ってはみたが本当はわかっていた。
襲われたのは自分だ。
とはいえ、だからといって逃げる気は微塵もない。
真正面から闘って返り討ちにしてやる!
ルークが何も話してくれないのならば、自分一人でなんとかしてみようと思った。
守られてばかりいるのはいやだった。