ファンタジア

アルフェリア28

 それは真夜中にやってきた。
 まず最初に宿屋の人の静止の声。それから、ばたばたという慌てた足音。
 最後に、ノックもなしに勢い良く扉が開いた。
 アルフェリアとレイチェルは目を丸くして部屋には言ってきた人物を見つめた。
 息を切らして部屋に飛びこんできた人物、それは……
「ルークっ!?」
「ルークさん?」
 二人がほぼ同時に彼の名を呼んだ。
「なにかあったんですか?」
 レイチェルはいまだ驚きおさまらない表情で呟いた。
 ルークははっと表情を変え、一転してバツの悪そうな曖昧な笑みを見せた。
「あ……いや。その…………」
 レイチェルは小さく息を吐くとルークの腕を引っ張って部屋の外に連れ出した。
 アルフェリアにしばらく待っているよう声をかけて。

 

「一体どうしたんですの〜? アルフェリアさんがこちらに泊まる事はルンドが伝えたはずだと思うですけど〜」
 どこかのんびりとした口調とは裏腹に厳しい瞳。
 ルークは確信した。なにかあったのだと。
「ああ、それは聞いた。でも心配になってさ」
 アルと行動を共にしていた五年間、追っ手などまったく姿を見せなかった。
 そして、ルークはあの噂を知らなかった。アルの異父弟、クリスが病弱に生まれついてしまったということを。
 だからこそ、コロシアムに参加する時も特に偽名など使わなかった。けれどルークは今、そのことを激しく後悔していた。

 ルンドの様子がどこかおかしい……というよりは必要以上に警戒していたことに気付いたのはルーク自身もそれなりの腕をもつ剣士だから。
 とりあえずルークは、ここに来た理由をルンドの様子を見て何かあったのかと思った、と伝えた。
 レイチェルは一瞬怒ったような表情をして、少しだけルークから視線を逸らした。
「夕方、私が襲われたんですの」
「レイチェルが……? アルじゃなくて?」
 ルークは意外そうに問い返した。
 その言葉にレイチェルがぴくりと反応する。
「どうしてアルフェリアさんが襲われるんですの?」
 レイチェルは平然とした様子できり返した。
 ルークはもちろんアルの生まれのことを言っていないし、どうやらアルも何も言ってないらしい。そもそも言っていればアルが魔法を使えることも知っていたはずなのだからこれは簡単に予想出来ることだ。
「そう……だよな。それじゃとりあえずおれとアルはあっちに戻る」
 言うだけ言って部屋に入ろうとしたルークの腕をレイチェルの手が止める。けれど、ルークはそれを無視した。
 知らないなら巻きこまない方が良い。
 それが、ルークの考えだった。
「アル!」
 扉を開けて声をかけるとアルがにっこりと笑って答えた。
「なーに?」
「戻るぞ」
「…………? うん」
 アルは一瞬不思議そうな顔をしたが、すぐにぱたぱたと宿を出る用意をはじめた。
「ルークさん!」
 非難ともとれるレイチェルの呼びかけに、ルークは小声で答えた。アルには聞こえない様に。
「悪い……けど、今は一緒にいないほうが良い」
 そうして、二人はその宿を出ていった。

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