ファンタジア

アルフェリア23

 六歳くらいまではクラリアットに住んでいた。
 とはいえ、アルフェリアが住んでいたのはその片田舎の小さな町。ルークと旅をしている間にも大きな街に立ち寄ったことは何度かあったが、ここまで賑わっている街は初めて見た。
 物珍しさにキョロキョロと辺りを見回していたときだ。
 見慣れた顔を見つけたのは。
 一瞬、迷った。自分の勝手で彼のもとを離れたのに戻って歓迎されるだろうか?
 けれどそんな迷いは一瞬で消えてしまった。嬉しさのほうが遥かに大きかったからだ。
 思った瞬間体が動いていた。駆け出す。たった数ヶ月がとても長く感じられた。
「アルフェリアさんっ!?」
 驚いたようなレイチェルの声が聞こえる。
「ちょっと会ってくる! 知り合いのルークって言う奴がいたんだ!!」
 ぱっと振りかえり、短く言うとまた駆け出した。
 またレイチェルが何か言ったのがわかったが、その内容は聞こえていなかった。

 

「ルークっ!!」
 アルフェリアは彼に飛びついた。
「アル……?」
 ルークが驚きに止まる。
 そしてその直後、
「アルっ! おまえどこ行ってたんだ。心配したんだぞ!!!」
 周りの目も憚らないルークの大声。アルがその答えを言う前にルークは苦笑した。
「ったく。何を言われたか知らないけど勝手に出ていくな。……こっちの気持ちも考えろよ」
 ルークは本気で心配してくれていた。表情から、口調から……それがわかった。

 どうやらルークは知っているらしい。アルフェリアがルークのもとを離れた理由を。
 ルークはアルフェリアにとって命の恩人であり、剣の師匠だ。出会ってから約五年、ずっと一緒に旅をしていた。
 けれどクラリアットの城下町に訪れた時、ルークが代々城に仕えている騎士の一族であることを知った。アルフェリアは、自分のせいでルークが城に行こうとしないとルークの一族の者に聞き、足でまといになりたくないと置手紙だけ残してルークのもとから出てきたのだ。

「ねぇ、ルークはなんでここにいたの?」
 ルークが傍にいるときだけ見せる、アルフェリア本来の口調と性格。
 とても十五歳には見えないその表情にルークは笑顔で答えた。
「アルを探してる途中でコロシアムのこと聞いてさ。近くに来たついでに参加してみようかと思って。修行にもなるしな」
「僕も出るっ!! いいでしょ?」
 間髪入れずに叫ぶ。ルークはぽんっとアルフェリアの肩を叩いて前を見た。そしてからかうような口調で言った。
「別に良いけど大丈夫か?」
 アルフェリアは頬を膨らませて言い返す。
「大丈夫だよぉ。ルークってば心配性!」
 少々声の大きい会話に周囲が二人を見る。
 言葉だけ聞いていれば十歳程度の子供と二十歳ぐらいの青年の会話。けれど実際に目をやると、その片方は予想を外れて十五歳前後の少年。
 そうして、二人を見やった人は少しばかり眉をしかめて視線を逸らす。

 話しながら歩いているうちにいつのまにやら受付に到着した。
「アルも戦士部門の方だよな?」
 受付で申し込み用紙を書きながらルークが聞いてきた。
「え? えっと……どうしようかな」
 ちょっと迷っている様子のアルフェリアをルークは意外そうに見つめた。
 その視線に気付き、アルフェリアはまるで言い訳をするかのようにちょっと魔法に惹かれた理由を話した。
「この前会った……レイチェルさんって人がね、すっごく楽しそうに話すんだ。魔法とかのこと。だから、ちょっと……ちょっとだけね、思ったんだ。魔法そのものを嫌う必要は無いんじゃないかって」
 照れ笑いをして答えるアルフェリアにルークは優しい笑みを向けた。
「んじゃ、アルは魔法部門だな。決定」
「え゛……。まだ決めてないっ。ちょっと待ってよ」
 焦るアルフェリアとは対照的に、ルークは悪戯っぽい笑みを浮かべて言う。
「いつまでも逃げてらんないだろ? どんなに嫌ったって捨てらんないんだからさ」
 アルフェリアは口を尖らせてみたがルークは見事に無視してくれた。
 捨てられないとはたんに身についてしまった魔法の技術のことだけを言っているのではない。
 ランディ家を嫌うあまり、魔法も嫌っていたが本心から魔法を嫌っていたわけではない。アルフェリアをソーサレスにしようとしていたランディ家に対する反抗心みたいなものだ。
 魔法そのものは嫌いどころか好きなのだ。呪文の構成や、その成り立ち。そういったことを学び、調べたりするのは結構楽しい作業だった。
「ん〜〜〜〜〜……わかった。頑張ってみるよ」
 文句を言ったって聞いてくれないことはわかっている。
 それになにより、アルフェリア自身の気持ちがすでに魔法部門のほうに傾いているのだ。
 それでもさっきごねてしまったから、ちょっと唸って見せて、それからアルフェリアはそれに同意した。

©ファンタジア