「アルフェリアさ〜ん」
剣の稽古をしていたアルフェリアは、声と共に駆けてくるレイチェルに気付いて一旦手を止めた。
レイチェルがこちらに来るのを待ってから声をかけた。
「レイチェル様。王に呼ばれていたようでしたが、そちらはもういいのですか?」
アルフェリアの口調にレイチェルの瞳が揺れる。
「アルフェリアさん?」
アルサロサでは、ルンドの手前”レイチェル様”と呼んでいたが口調はいたって普通であった。
年の近い友人に対するような口調。が、今の口調は明らかに目上の人間に対するそれだ。
レイチェルの疑問の声には答えずに、こちらから聞き返す。
「何か?」
レイチェルはアルフェリアの態度についてはそれ以上言わなかった。
口調を変えた理由は簡単だ。
ここがラジアハンドであり、その城であるからだ。
アルフェリアとてレイチェルが高位のビショップであることを忘れていたわけではない。
ビショップとして行動しているわけではないレイチェルをビショップ扱いしようとは思わなかっただけだ。
だがここは違う。
例えレイチェル自身の行動や考え方が変わっていなくとも、この城の中ではレイチェルは確かにビショップなのだ。
それはレイチェル自身よりもむしろその周囲の人間の眼差しでわかった。
だから、ここに居る限りはきちんとビショップとして扱うつもりでいた。
レイチェルはまだ多少の戸惑いを残しているものの、しっかり用件を伝えてくれた。
一つは宝刀のこと、もう一つは舞会のことだ。
宝刀についてはもともと自分のものではないのだ。ただ、とても立派な剣なのでもうちょっと持っていたいという気はあったが。
そのことをレイチェルに伝えると、レイチェルは快く承諾してくれた。
「で〜、アルフェリアさんも舞会にいらっしゃいませんか〜?」
「いえ、それは遠慮させていただきます。おれみたいな一般人が行くようなところではないでしょうし」
が、これは表向きの理由だ。
各国のお偉いさんが集まるようなところに顔を出して、万が一にも見つかったら……――各国のお偉いさんと言うならばランディ家の人間がいる可能性もゼロではない。――
ここでどうこうということはないだろうが後が怖い。
今は顔を知られていないおかげであまり気にせずとも問題ないが、顔を知られたら多分逃げ切るのは難しいだろう。
とはいっても、実際の精神年齢がまだ幼いアルフェリアは舞会に対する純粋な好奇心があり、行ってみたいという気持ちもあった。
そんな好奇心が顔に出ていたのだろうか。
「フォルクスさんたちも呼びますし、遠慮することありませんわ〜」
レイチェルはクスクスと笑いながらそう言ってくれた。