ファンタジア

セザール18

いつから、夜がこんなに暗くなったのだ。
いつから、夜がこんなに寒くなったのだ。
 暗闇にそびえる時計塔の先端に立ち、暗闇に沈む世界を眺める。
 見えない風にローブの裾がひるがえる。
いつから、夜がこんなに長くなったのだ。
いつから、夜がこんなに五月蝿くなったのだ。
 不意に、遥か遠い闇の中――生物が視る事ができる距離の遥か向こうで、小さな小さな円形の光が灯る。
 ひとつだけではない。十、二十、三十と数を増やしていく。
忌忌しい光め。また我が前に現れおって。
だが、お前の時代は疾うに過ぎたのだ。
もはや、何もする事などできぬよ。

「ア、アカデミー本部……」
 先生は例の如く突然に、そこへ行けと言った。
「そ。アカデミー本部」
 あの不思議な夜から三日。あの石の影響を抑えるためということでずっと家の中でずっと先生の治療とやらを受けていた。しかし、治療とは名ばかりでほとんど先生の旅話を聞かされる日々だった。
「けど、俺、追い出されたんですよ」
「遍ク、学ヲ追求セシ者ノ学ビ舎。アカデミーは無害な一般人を叩き出すような事はしない。そうだろう?」
 一体この人は俺に何をさせたいんだろう。
「……石の影響はもう大丈夫なんですか」
「もうぜんぜん大丈夫よぉ。あ、ただ、お守りは持ってってもらうけどねん」
 とうとう俺に断る理由はなくなってしまった。
「なんだい? そんなに嫌な事かい?」
 先生は、俺が眉間にしわを寄せて頭をぼりぼりと掻く様子を見て言う。
「そりゃあ。先生はわからないと思いますが、俺がやった事は外から見たよりも大変な事だったんですから」
 俺は思い出す。まだ記憶に新しい、あの事件を。
「ふーん。複雑っすネエ。けど、時効じゃないの、あの事件」
「早過ぎですよ、時効には」
「あらそう? まあ、いいじゃない。お礼参りってことでさ」
「ぜんっぜんまずいです」
 思いっきり強く先生に言うが、先生はとぼけ顔をする。
「ところで、先生はアカデミーまで行って一体何をしろと言うんですか」
「知らないわ」
「は?」
「わからない」
 先生は思いっきり真顔だ。
「い、いや、あの、わからないって。じゃあ、俺は一体なんであんな所まで行かなきゃないんです?」
 そこで先生はにたりと笑い、
「あなたが行けば何か起こるかもしれなからよ」
 と言った。
「……はぁ」
 おれは再度、何を考えているかわからない我が師の性質を確認した。

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