「……さ、さみぃ」
心なしか静かに燃える焚き火のそば、マントにくるまっている男がいる。
炎と星の明かりが照らし出すそこには、砂と岩と枯れ木しかない。
気持ちよく澄んだ夜空は、ただでも寒い砂漠にさらなる寒さを振りまく。
「……さーみぃ」
マントからおずおずと手が出てきて、男の脇に山積みになっている薪を一掴み、火に放り込む。
パチパチと鳴りながら炎が少し大きくなった。
寒さが少し和らいで、顔がほころぶ。
男はふっと、何かを思い出したかのように、マントの中でごそごそと動く。
マントの中から取り出した物は、小さなビンに入った小さな石だった。
火の光に透かして見ると、その石が半透明であることがわかる。
「……本当にあったんだな」
男は石を見続ける。
この男の名はセザールという。
「アルケミスト」と呼べば聞こえは良いが、その実は単なるマニアだ。
確かに、昔は錬金術にはまったこともあった。それは、昔のことだ。
今では、何か一つに没頭することなどなく、風の吹くまま気の向くままの調べものしかやっていない。
どこか一所に留まることも、出来ない。流れ流れて今は砂漠だ。
ここまでやって来た来た理由は特に考えられないが、たぶん、酒場どっかでここの噂でも聴いていたんだろう。
しかし、辿り着いてやっと一つのことを思い出した。
昔、知り合いが砂漠について論議を起こしたことがあった。
そいつは砂漠の砂は全て特殊な鉱石が変化した物だと言い張った。
当時、砂漠の発生は森林火災や天候などが理由とされていたから、それはそれは波風が立ったものだ。
もちろん、それに対して鼻で笑う奴はいても、うなずく奴はいなかった。
しばらくして、そいつは引き下がり、そのまま姿を消してしまった。
証拠が無かったのだから仕方が無いことだが。
それが今、突然に思い出されて興味が出てきたのだ。
そして、その証拠をたった一日で見つけてしまった。それも、砂漠に入る前に。
正直驚いた。
なにせ、実際に石が「砂漠」に変わる瞬間を見てしまったからだ。
目の前にあった、ほんの小さな岩が突然崩れ去って細かい砂になってしまったからだ。
そこをしばらく掘り起こしていると、この石が見つかった。
「しかし、これだけ目立つ変化をしていて、何故に今まで知られていなかったのだろうな」
これから忙しくなるのかもしれないな、と微かに思った。