リョウルクはもちろんテーヴァ出身のリズマンであったし、大陸一般にはランサーと呼ばれる槍使いでもあり、キセル好きの「粋」な男衆でもあった。テーヴァのリズマンらしくゆったりとした長衣も着ていたし、尻尾も堂々とした流線型で、鱗も「燃えるような」と皆から評されるそれはすばらしいものだった。身の丈はリズマンとしても頭ひとつひいでているし、鍛えられた筋肉は鱗の下からでも隆々と盛り上がっていることがわかる。理想的な戦士の体格。それを持っていた。
以上の点ではリョウルクというリズマンは代表的なテーヴァの「漢」だったと言っていい。それを積極的に支持する男衆はいても、彼を邪推する不粋な者は男衆としては認められるものではない。だから、いない。
だが本人自身はなんとなく現状に不満を持っていた。具体的には言い表せないぼんやりとした、他人には説明しようのない不満である。
――なにか嫌だ。
リョウルク当人にしてもその程度の実感である。人に話せるようなたぐいの悩みで
はない。
そう思っていた。
変化に気づいたのは男衆の新参者が始めだった。その者は名を嵩(かさ)という人間の若人だったで、腕っ節はからっきりですばしっこいのと耳ざといのがとりえの小男である。いつもはリョウルクを中心とする輪の中に入らず、遠くからただ見ている気
の小さい男なのだが、その日は違った。
「リョウさん。どうかしたんですか?」
実のところ嵩は、いつもいつも輪の外から耳で男衆の話を聞いていたのだった。あこがれであるリョウルクの声が聞こえないのに気がついたのは、そういう訳があったからなのだ。他の男衆は自分達の話しに夢中になっている。いわく、刀と槍どちら
が有利か、在村の宝刀は魔法のごとく岩をぶった斬るとか。
「……………………」
もちろん本来気づかない性格であるリョウルクは、身体と声の小さい嵩の控えめな問いに反応しなっかった。
「……リョウさん」
「……………………………」
「………………リョウさん」
「………………………………………」
「………………うぅ」
リョウルクはこの時、嵩の声など耳に入っていなっかった。というのも、彼は人生において初の試みをしていたからなのだ。一概に彼も嵩も責められまい。
リョウルクの初の試み。
それは、深く考えることだった。