ファンタジア

ルンド3

「お前って奴は、本当にレイチェル様の事になると性格変わるんだよな……いやに積極的にさ……」
 そう言うとグレッタは頭をかきながら、いい加減にしろよなとでも言いたそうな表情でルンドを見た。

 他の国と比べてやや人口の多いラジアハンド王国でも、常に人気(ひとけ)の無い所の一つや二つくらいはあるもので、二人が腰を下ろしているここ「ライトグリーンズの丘」もその内の一つだった。
 ライトグリーンズの丘は、王国の所有地の一つであって、普通は一般人は進入出来ないことになっているが、何もない丘なので自ら進んで来ようという人は無く、丘の所持者である王族ですら滅多に来ることがない。という宝の持ち腐れ的な場所だった。
 が、その人気のなさを利用して、恋人達のデートスポットになったり、誰にも知られたくない会話をしたい時にも度々ここが使われた

「さっきは助かった、ありがとう」
 ルンドはグレッタに向かって、彼が驚くほどの礼儀に則った形の丁寧な一礼をした。
「なに、いつものことだろ。気にすんなよ、お前のレイチェル様を思う気持ちがそれほど強いって事だ」
 あまりにも馬鹿丁寧なお辞儀を返されたので少し戸惑ったが、あくまで顔には出さず思わず口から出た。
 つまり、ついさっき顔に出した表情とは正反対のことをグレッタはさらりと言った。
 深く意識しない発言はすぐ忘れる性格らしい。

 少なくともルンドは、このあっさりした性格のグレッタという男に好感を持っている。
 初めて会ってからそれほど月日は経っていないのだが、この男の持ち前の明るさ、誰にでも自然に振る舞える寛大さ(勿論王は例外だが)そして何よりもルンド自身のあらゆる面を見ても、臆することなく接してこれた。
 そんなことが出来たのは、今行方知れずのあの人をおいて、この男しかいなかった。

 赤々とした夕日がゆっくりと大地に還っていく、夜の帳(とばり)が降りるまでそう長くは無いだろう。
「お前、行くのはいいがアレは大丈夫なのか?」
 うって変わって真剣な顔つきになったグレッタは少し心配そうに問いかけた。
「大丈夫と言えば嘘になるが、それも覚悟の上だ」
「……そうか」
 こいつの意志の強さは国宝級だなと思いつつ、もう何も言うまいと頭(かぶり)を振った。
「まあせいぜい頑張れよ!」
 力任せに背中を叩かれルンドは大きく咳込んだが、その後の彼の豪快な笑いに、こいつに弱味なんて存在するのだろうかと、叩かれたことも忘れて呆れ返った。

 帰り道、らしくない声の弱々しさでグレッタはこんなことを言った。
「なあ、なるべく早く帰って来てくれよ。王様の前じゃあんな見栄張ってたが、実はこっちも今の任務だけで結構一杯一杯なんだからな」
 そう言ったグレッタは、本当に顔がひきつった苦笑をしていた。

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