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ルンド27

 部屋を出ると廊下の数メートル程離れた所に4、5人程の女中が屯(たむろ)していた。
 手にはそれぞれメジャーとペン、紙を持っている。
 こんな所で何をしているのだろうと思っていると不意にそのうちの一人がこちらに気付いたようで、そこにいる他の女中達に気付かせる様に叫んだ。
「あ! ルンド様が部屋からお出になられたわ!!」
 そう言うと女中は他の女中達とルンドの方に大急ぎで駆けてきた。
「何か?」
 ルンドが訊ねると女中達は声を揃えて自分達はこの舞会のために特別に結成された裁縫部隊でルンド様の舞会での礼服をお作りするために参りました! ですがここではちょっと計りづらいので用意した部屋にいらっしゃって下さい、と、言った。
「私は舞会の日は城門前の方の警備の指揮をしなければならないので、礼服は必要ないと思いますが……」
「え? 警備!?」
 驚いたように女中達は顔を見合わせた。
 どうやら彼女たちの聞いていたルンドの予定とは違ったらしい。
 ルンドを背にして女中達はざわめき合ったが、落ち着きを取り戻すと遠慮がちに一人がルンドに話し掛けた。
「あの……ルンド様? 私たちはルンド様も舞会に出ると聞いたものですからこうしてお迎えに参りました。ですが何処かで手違いがあり、私たちに情報が入らなかったようですのでこれで失礼いたします。お騒がせいたしました……」
 ガックリと肩を落とし、足早にその場を去ろうとする女中達に今度はルンドが質問をした。
「私『も』とはどういう意味ですか? 私の他にも誰か?」
「グレッタ最高位騎士様ですわ」
 女中の一人が言った。
「私が舞会に出るというのを貴女方が聞いたのはグレッタですか」
「おっしゃる通りですわ。私たちは今採寸の真っ最中のグレッタ様の話を受けてお恥ずかしながら飛んで参りましたの」
 女中は顔を赤く染めながら言った。
(そういうことか……)
 今日グレッタが警備の打ち合わせに来なかったのは採寸していたためだったのだろう。
 あれほど表舞台に出ることを嫌がっていたのに、さてはレイチェル様に捕まったか、あるいは……それにしても人を巻き込もうとするとは、……いい度胸をしているじゃないか。
「ルンド様、どうかしまして?」
 女中が心配そうに顔を覗き込む。
「いえ、何でもありません。
 それよりグレッタは今も採寸場にいるのですか?」
「はい、レイチェル様と御一緒に……あ、勿論部屋は別々ですよ」
『レイチェル様』と聞いてルンドは一瞬頬の肉が引きつるのを覚えた。
 嫌な想像が脳裏をよぎった。
 現実になりそうな予想だっただけにやけに鮮明に想像してしまった。
 その時女中が廊下をこちらに向かって駆けてきた。
 かなり遠くから女中達の姿らしきものを見て取ったようで、いきなり大声で叫んだ。
 ルンドの姿までは見えないようだ。
「みんなー!! ルンド様は捕まったぁー!? 今採寸場の方から連絡が来てねー! ルンド様もレイチェル様の命令でグレッタ様共々舞会に参加することが正式に決まったってぇー!!」
 途端にさっきまで残念そうにしていた女中達が一斉に目を輝かせてルンドを見た。
 嫌な想像ほど何故か現実のものとなってしまう。
 そんな法則めいた事実にルンドはやるせなさを感じずにはいられなかった。

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