打ち合わせに指定された場所、城の比較的大きな部屋で他の代表が来るのを待つ。
まだ時間までに半刻ほどある。
余裕を持って部屋を後にしたのは良いが、少し早く来過ぎたようだ。
自分の姿が窓に写し出されないように無意識的に注意しながら窓の外を見る。
まだ辺りは薄暗い、心なしか時間が止まっているように思えた。
コンコン
不意にドアをノックする音で時間が動き始めた。
小さくきしむ音がして扉が開く。
ルンドは扉の方に向き直ると半心音の後に表情を固くした。
入ってきたのは頬の痩け、鎧を身に纏ってはいるがどことなく頼りなさそうに見えてしまう体つきをした男だった。
華奢な身体には毒とさえ思えてしまうような重そうな装飾を余計に施したロングソードをまるで、自分を着飾る時の装飾具のように腰の剣帯に纏っていた。
しかし、その体つきを見事に補うかのように眼光は鋭く、強い。
人が最も忌み嫌う類といわれる眼、その眼に入る者全てを見下すような眼をしていた。
口元は生まれてから今日までそうであったかのように皺が形作られた陰険な笑いをたたえていた。
「トロス警備副隊長……」
「まだ時間的に早いが、君がここに入っていくのが『偶然』見えたものだから、時間まで何か話でもしようかと思ってね。ルンド『最高位騎士』殿?」
嫌みを含んだ口調でトロスと呼ばれた男は言った。
「私は今あなたと話すことなどありません」
厳しい口調で返すルンド。
「おや随分と私は『最高位騎士』様に嫌われているようだ、私はた
だ『最高位騎士』様と久しぶりに話をしようと思っただけですよ?」
扉を閉め、ルンドと卓を隔てて反対側の椅子に腰掛ける。
その椅子が鎧の重さで幾分か軋む。
口には相変わらず陰険な笑みを浮かべている。
声と口は笑っているが眼はまるで狩りをするときの猛獣のように鋭いままだ。
その眼でルンドを見る。
獲物をどの様に料理してやろうかと観察している様にも見える。
「私はね……」
相手が話に乗って来ないと判断したトロスは誘い出すことに決めた。
「君のような私から見れば若年の男がその役職もさることながらここに堂々といること自体が大変興味深いのですよ。突然この国に現れてあっという間に我々を押しのけ『最高位騎士』の称号を得る、そんなこと誰も出来ることではありませんよ。よほど大変な努力を成されたのでしょうなぁ、例えば私のような貧相な頭では到底思いつかないほどの悪知恵の働くストレシアの……おっとこれは失礼、色々な方面に目ざとく知恵を働かせるストレシアの人間たちに習って知恵を働かせるとか……」
明らかに挑発するための言葉を選び言う。
歳もルンドの倍に近い位いっているであろう
この男は気に入らない者にはその口で以て嘲る癖があった。
いや、もうその癖は身体の一部と化しているのかも知れないが……
そういう理由でトロスはラジアハンドの騎士達の間ではあまり良い噂の立たない男の一人でもあった。
無論その良くない噂はルンドの耳にも届いていたのであまり関わり合いを持たない方がよいと思い、沈黙を守ることに勤めた。
それから暫く口を休まず動かし続けていたトロスだったがついには諦めたようで、次はもう少し君も話しやすいような話題でも考えておきましょう、とこの男特有の笑みを浮かべながら出ていった。
あの男とは関わり合わない方がいい。
ルンドの第六感がそう静かに告げていた……