「ではレイチェル様、出発しましょう」
曇天の朝方、早々に出立の準備を整えたルンドはレイチェルの部屋のドアをノックして入り、四角い空を眺めるレイチェルにそう言った。
だがレイチェルは一つの返事も返さず、相変わらず窓を見つめている。
それを心配したルンドはもう一度口を開く。
「どうなさったのですか?」
「……ねえ、ルンド……昨日フォルクスさんと何を話していたの?」
いつもの口調ではない真剣な時に出る口調でレイチェルは、胸に突っかかっていた疑問をルンドに投げかけた。
「……昨日のフォルクスさん、普通じゃなかった……何か酷いこと言ったの?」
そのことが気がかりで昨日は一睡も出来なかった様だ、朝だというのに疲れが取れていない事がそれを物語っていた。
「……いいえ、彼にはレイチェル様のご身分を言って聞かせただけです」
「そう、私の身分を……」
少し寂しそうにレイチェルは呟く、昨日何であんなにフォルクスが落ち込んでいたのか分かったような気がした。
「……お別れの時までずっとあのままでいたかったんだけどな……」
ルンドに聞こえない位の小さな声で思わずそう呟いた。
「? 何だ何だ、やけに下の階が急に騒がしくなったぞ……」
ルンドに付いて行くべく出立の準備を進めていたセザールは、何事だろうと思い吹き抜けから下の階を見やった。
「!!」
そこにいた騒音のもとは、昨日の朝見かけたあのエーレブルーの騎士達だった。
「おい、ここにリオと言う無表情の若い娘が泊まっているだろう?
命が惜しくばその娘をここに連れて来い、今すぐにだ!!」
乱暴に騎士の一人が亭主の胸ぐらを掴み大声で叫んだ。
(リオ? どっかで聞いたような……! あの女の子か!!)
昨日のゴタゴタの夕食の中で名乗ったあの子はたしかリオと言っていたと、セザールは思い出した。
「セザールさん、何かあったのですか……あの連中は?」
いつの間にか背後に立っていたルンドが、セザールと同じく下の階を見やると軽蔑するように目を細めた。
「エーレブルーっていう国の騎士達だよ、昨日の朝俺は会ったんだけど、今さっきの話からすると、リオとか言うフォルクス達と一緒にいた女の子を探しているらしいぞ……にしても強引だよな」
「なんにせよあの騎士のものの訊き方は放っておけませんね、行って止めてきます」
そう言って下に降りようと階段に向かおうとした途端、前方の部屋のドアが開き、中からリオが現れた。