「夜道は危ないぞ、お嬢サン」
少しおどけながら、仮面男──クロスドは言った。
「あ、あぁ。助けてくれたのか、すまない。有り難う、礼を言うぞ。それではこれで」
リエルは、突如現れた仮面の男に向かって、礼だけ述べると、そそくさとその場を離れようとした。
(先を急がねばならない。夜明け前には山を越えないと。)
焦りと不安と疲れでリエルの足はおぼつかなくなる。
「おっと」
石につまずいて、転びそうになるリエルを、すかさずクロスドが支えてやる。
「大丈夫か?」
聞かれたが、答えている余裕はリエルにはなかった。
「お嬢ちゃん。さっきのはアンタにだな? ってことは追われてるのかい?」
「あ、あぁ。そうだ。私は追われている。だから早く山を越えないと……!」
リエルは歩き出そうとしたが体が思うように動かなかった。
「おっと、嬢ちゃん。そんな体じゃ山を越えるのは無理だぜ。どうだい?オレと一緒に山を下りねぇか?」
クロスドの申し出にリエルは驚いた。
確かにこの体じゃ山を下りるなんて到底無理だし、なによりクロスドは強い。
それはリエルにもわかった。───が、
「貴方に迷惑をかけるわけにもいかない。それに、私を助けたら貴方まで、アイツ等に狙われてしまう。」
「なぁに、見ただろう? オレはこれでも結構強い。そう簡単にはやられないさ」
「しかし……」
「まぁ、オレも道に迷って困ってたんだ。嬢ちゃん、麓までの道はわかるだろう?」
「まぁ、一応は」
「だったらいいじゃねぇか。オレは嬢ちゃんを安全に麓まで連れていく。かわりに嬢ちゃんは、オレを麓まで案内する。これならおあいこでいいだろう?」
「だがそれでは──」
―─分にあわない─―と、リエルは言おうとしたが、言えなかった。
突然クロスドに、軽々と抱き上げられたのだ。
「うわっ!?」
これにはさすがのリエルも驚いた。
「それに、こんなか弱い足じゃ、山を下りる前に折れてしまうからな。」
言うと、有無を言わさぬ調子で、クロスドはリエルを抱いたまま歩き出した。
前で、しっかり体が固定されているので、身動きがとれない。
足が少し動いたが、しっかりと支えられてるので、降りるのは無理だろう。
こうなったら、従うほかあるまい。
クロスドの顔(仮面)がすぐ近くにある。
(これが俗に言う【お姫様だっこ】というやつか?)
なんかちょっと違う気もしないでもないが、率直にはそうだった。
(こうなったら、頼ってみるか、この男を。裏切るような奴ではないと思うし。なにより強いし)
リエルはそんなことを思いながら、肩の力を抜いた。
疲れがどっ、と押し寄せてくる。
そしてリエルは、クロスドの腕の中で、ぐっすりと深い眠りに落ちた───