ファンタジア

リオ16

第十六章    父の死

 

「何かあったら、言ってくれよ。俺もなるべく何でも、できることならあんたに力をかすから」
 ――私はどうすればいいんだろう。
 リオは今、真剣に考えていた。
 この人を本当に信用していいのか、わからなかった。
 だけど嬉しかったのは確かなのだ。それなのに……
「どうした?」
 複雑な表情をしているリオに、声をかける。
「別に……」
「そうか」
 その時、フォルクス達が乗っている船の真横を、別の船がゆるゆると流れてきた。
「あっ……」
 思わず声をあげる。
 その船には、エーレブルー国の紋章が刻まれており、更に……

「やっと見つけたわ、リオちゃん……」

 レベッカもいた。
 フォルクス達の船の真横にぴたっとくっつけて、こちらの船に乗り込もうとする。
 何事かと船を止め、船員たちが出てくる。
「おいおい、なんだよ。誰だよ」
 船員の一人が、面倒くさそうにいった。
 フォルクスがリオに耳打する。
「(……どうするんだ?)」
「(ごめん。すぐ、片付ける……)」
 そう言ってリオはレベッカの前に立った。
 その異様な雰囲気で、誰も何も言えなくなっていた。
「……リオちゃん、今日はお知らせがあるのよ」
 レベッカが変わりない美しいブロンドの髪をかきあげる。
 潮風が、少し強くなっている。
「知ってるかもしれないけど……」
「…………」
「貴方のお父さん、死んじゃったのよ」
 その件については、もう驚かなかった。
 アストから聞かされていた。だから、もう別になんの興味もない……
「だから?」
「……あらあら、随分そっけないのね。じゃあ貴方が後悔するようなこと教えてあげるわ」
「…………」
「貴方のお父さんね、危篤状態の時ずっと貴方の名前を呼んでいたの。
 そして、謝ってたわ。すまなかった、すまなかったリオ。ってね」
 フォルクスが、リオの顔色を窺った。
 だがいつもと変わりないポーカーフェイスは、崩れていなかった。
 潮風が、吹き止む。
「……それで?」
「貴方が来たら助かったかもしれない、ってことよ」
「別に、もう関係ないもの」
「そう? あんなに仲が良かったのにね?」
「……いつの話をしているの」
「10年前、かしら?」
 レベッカが考えているようなポーズをとる。
 リオは眉間のしわを寄せて言った。
「……出てって」
「え?」
「もう私に付きまとわないで。王が死んだのなら、あの国……好きにしていい」
「ほ、本気で言ってるの?」
「ええ。本気よ」
「そう……。それを聞いて安心したわ。それじゃ、セントルシア王国は完璧にエーレブルー国の……」
「早く、出てって」
 レベッカが話している途中で、リオはそれを止めた。
 レベッカはそんなリオに意味深な微笑みを向け、自分らの船へと戻った。
「……もうエーレブルー国は貴方に手出ししないわ。約束する」
「あなたの約束なんか充てにしない」
「そうね。賢くなったのね」
 レベッカが乗った船はすごいスピードで、今まで来た方向に引き返し始めた。
 それが見えなくなるまで見送ると、リオはくるりと船員たちのほうを向いて深々と頭を下げた。
「……ごめんなさい」
 そんなリオの態度に、船員たちは顔を見合わせる。
「……今のやつ誰なんだ?」
「なんで、お前さんを探してたんだ?」
 いろんな質問が飛び交うのを止めてくれたのは
「おいおい。あんま詮索すんなよ」
 フォルクスだった。
「気になるじゃないか」
「確かにな。だが、こいつは俺の連れだ。余計な詮索はやめて欲しいね」
 その一言を聞くと、船員たちは揃って舌打ちした。
「チッ、仕方ねぇな。ほら、仕事場に戻るぞ!」
「…………」
 リオはまだ頭を下げていた。
「もういいよ」
 フォルクスの一言で、やっと頭をあげる。
「もう、大丈夫だと思う。……もう迷惑はかけないから」
 リオはその言葉だけフォルクスに告げると、船室に帰って行った。

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