リオの旅立ち
「ねぇねぇ君、どこから来たの?」
軽々しくナンパをしてくる男の前に、リオはいた。
「ねぇ君、どこから来たのってば。」
馴れ馴れしく肩に手を置いてしゃべっている男にリオは見向きもせずにスタスタと歩いた。
ここは、アスリースの職人通り。
商店街が建ち並び、始終ガヤガヤとうるさい雰囲気だ。
「……ちぇっ。ちょっとばかり美人だからって、お高く止まるなよな!」
その男はそう言い捨てて、リオから離れていった。
―――――――違う。あの人じゃない。
リオは心の中でそう呟き、唯一の武器のリングをギュッと握り締めた。
――――…………誰もいない。私を理解してくれるのは、誰も――――
無表情のまま、リオはそう頭の中で呟いた。
下をうつむいたまま、リオは職人通りを通り抜けた。一気に静かになった道端で、リオは立ち止まった。
≪君は何を考えているのかわからないよ≫
≪本当は、そうやってただ気取ってるだけなんじゃないの?≫
≪俺が好きなら、好きって言えよ!!≫
――――――嫌!!
リオはその場で耳を塞いだ。
静かなところだと、嫌な記憶ばかり思い浮かんでくる。
もう、あの事は思い出さないつもりだったのに…――――
暗い過去や忌まわしい思い出は全部、消せればいいのに…――――
耳を塞いだまま、暫くそこに立ち止まっていた。
ポンっ!
ふいに、誰かに肩を叩かれた。驚きながらも後ろを振り返ると……
「姫…探しましたよ。婚約者のアスト様が必死で貴方を探して…………。」
城の使いの者だった。
リオが城を脱走したのを知り、慌てて追いかけてきたのだろう。
リオは驚きながらも、顔にいってんの焦りも見せなかった。ポーカーフェイスだけは、長い間城の中で暮らしたリオの得意技だった。
「さぁ姫。城に帰……。」
ダッ!!!
使いの者の隙をついて、リオは一目散に走った。
あまりの速さに一瞬何が起こったのか分からない使いの者も、はっとしてリオを追いかけていく。
「姫!! 待ってください!!」
「アスト様が待っておられるんですぞ!」
―――あの人じゃない。アストは、私を理解してはくれない。
政略結婚なんて……したくない!
はじめて、リオが自分勝手な行動をした瞬間だった。