「さてと……急いで闘技場に行かなくちゃ〜! 今日のあの子の様に遅刻してしまいますわ〜!!」
ルンドをお使いに閉め出した後、レイチェルは大急ぎで用意をしていた。
「ええと、アレも持ったし、これももったわね〜ああ! マントを忘れていたわ!」
そして、レイチェルはベットの下に隠してあった白い大きなローブをバサリと被ると闘技場へと向かっていった。
行く途中に買い物途中のルンドを見かけたが白いローブで顔を隠していたので分からなかったようだった。
闘技場にくると中は歓声の嵐だった。
それもそのハズ……朝一で行なわれた試合が反響を呼び今回のレイチェル戦のチケットはかなりの価格で取引されたのだった。
「た……沢山いらっしゃるのね〜」
控え室でチラリと外の様子を見ながらそんな事を言ってると今日の対戦相手の魔術師らしき若い男がレイチェルの控え室に入ってきた。
「こんにちは、ラミスサイヤさん。僕はクローバー、今日の朝は僕の妹がお世話になった様だね。僕は妹みたく下級魔法しか使えない無謀な奴とは違うからね、覚悟しておいてくれよ」
「えっ……は……はぁ」
いきなりの自信満々な雰囲気にレイチェルは思わず気の抜けた声を出してしまった。
今日の観客達も、さも自分の為の様に感じ取っているのだろうか?
観客達のざわめきに陶酔しきっている。
「え〜……あの〜……」
小さな小窓から観客席を覗いたまま動かないクローバーにレイチェルは声をかけられないでいた。
「ふふふ……この僕の素敵な魔法に酔いしれてこの観客達はこの僕の華々しいデビューを歓声の嵐によってもり立てるのさ……悪いが君には僕のデビューのいい踏み台になってもらうよ! ……ふふふ……ふふ」
「は……はぁ」
――バタン!!
「ちょっと! お兄ちゃん! ラミスサイヤ様に何してるのよ!!」
「あ! この前の対戦相手の……スクエルさん?」
「おお無様な妹よ! 遅刻をした挙げ句……ほんの数分で負けるなんて! 我がロナウ家の恥さらしめ!!」
「もーーー!! なに言ってんのよ! 今日遅刻したのだってお兄ちゃんの魔法の実験台になって気絶してたからでしょー!! それに私の家は代々農家でしょーがっ!!」
「???」
「なにを言っているんだ? 僕の家はれっきとした魔法の――」
「はいはい……あっ! ラミスサイヤ様、ご迷惑おかけしました〜今日の試合頑張って下さい! こんなお兄ちゃんなんてすぐ倒しちゃっていいですから! ああ、けどけっこう強い魔法を持ってるんでそれには気を付けてくださいね!」
「なにを! スクエル! お前それでもぉぉ――」
クローバーは何か言おうをするがスクエルに耳をつままれながらドアをしめられてしまったので何を言っているかは聞こえなかった。そして、クローバー達と入れ替えに係員が入ってきた。
「えーと、ラミスサイヤさん。次、出番ですよ!」
「……あっ……はい……分かりました〜」
なんだか漫才コントの様なモノを見せつけられレイチェルは複雑な心境のまま舞台へと立った。
「えーーーそれでは、選手の入場です! 本日1番の見所! 純白の天使!
Eサイド・ラスミサイヤ選手です!」
審判がそう告げると会場の場は大興奮の嵐が巻おこった!
「Fサイドは、自称美形魔術師! クローバー・ロナウ選手です!」
クローバーは自分の方が肩書きが少ないのに不満の念を現わしていたが、専属の!?女性で構成された応援部隊の声が聞こえるとそちらにむかって笑顔で手をふった。
その途端、黄色い悲鳴があちこちから聞こえてきたのでクローバーは満足げにレイチェルを見下していた。
「それでは、ラミスサイヤ選手対クローバー選手……はじめ!!」
審判が始りの合図を出すと、会場は即座に静かになる……選手の詠唱を聞くためだ。
「ふふ……聴くがいい! 僕の絶大なる強さを!」
いきなり言い放った言葉に辺りは緊張した。
レイチェルは相手の出方を待っている。
妹のスクエルの様に放った魔法をその上位ランクの魔法でうち砕く作戦なのか?
しかし、それにしては嫌に余裕の表情!? いや、嬉しそうな顔である。
「聴け! 天空の雷神! 大地の炎神! 我が名はクローバー・ロナウ!
我は雷神の神託を受けし者、我は炎神の神託を受けし者
我が名の元に、汝らの力を分け与えたまえ!」
『ライバーン!!』
最後のポーズまでちゃっかり付け加えたクローバーは自信満々の笑みを見せながらレイチェルに向かって雷と炎の入り交じった球体を放った。
その途端! 審判と観客は歓声をあげる!
「おーっと! 凄いです! クローバー選手! これはかなり高等な魔術です!」「わーわーわー!!」
「……我……統べし……汝……」
そんな事を言いながらレイチェルは白いローブをゆるやかに揺らしながらものすごい勢いで向かってくる球体を避ける。
「おおーっと! ラミスサイヤ選手! あざやかです! クローバー選手の攻撃をあざやかに避けました!」「わーわーわー!!!」
「なっ! なんだと! 僕の必殺魔法が!! こうなったら!」
クローバーは避けられてショックだったのか、観客の声も無視して次の詠唱に入る。
それから2,3度……氷のつららや燃える石……等などクローバーは高等魔術を連発してきたが目をつむってなにやらぶさくさ言っているレイチェルにすべてかわされてしまったのであった。
避けているだけのレイチェルにクローバーは元より、観客も怒りはじめると、レイチェルはやっと少しずつ動き始めた。
「おーっと! ラミスサイヤ選手! 動き始めました! なにがおこるのでしょうか!!?」
「ふん! いまさら何をしても同じさ! どうやら僕の強さにおそれをなしたようだからね!」
クローバーは自信ありげに言い放ったが、ずんずんと近づいてくるレイチェルに口をつぐんだ。
「……な、なにを?!」
「……『オメガ・ジャベリン!』」
レイチェルはクローバーの顔の前で白ローブに隠れた顔をすこしだけ見せると笑顔で言い放った。
その後の光景は観客は元より、審判、そしてクローバーを仰天させる事となった。
なにせ、さっきクローバーが出した高等魔術を一度に全部出してしまったのだから……。
結果はレイチェル……いや、ラミスサイヤの勝利となった。
クローバーは負けたのが信じられない! といった感じで試合が終わってもその場を立ち去らなかった。
帰り道、レイチェルはルンドと知らない女の人が居るのを見かけた。
「あら? 誰かしら〜? あのひと……?」
仲良く!?笑っている女性と恥ずかしそうにしているルンド……
二人を見るとレイチェルは複雑な心境になってしまっていた。