ルンドが先刻の戦いから宿・コリアンヌに帰って来たのは深夜の2時をまわっている所だった。
レイチェルはルンドの隣の部屋ですやすやと寝ているのが分かる。
ルンドもそんなレイチェルに安心して……
部屋のベットに倒れる様にして寝入ってしまったのだった。
それから2時間後……午前4時30分……。
レイチェルはさっきまでルンドが立っていた闘技場の隣の闘技場に来ていた。
それはもちろん、これからルンドと同じく一戦交える為である。
「しかし……朝は眠いですわぁ〜」
レイチェルは朝の人気の少ない闘技場で対戦相手を待っていた。
ルンドは出るときには熟睡していたが、追い打ちに眠る魔法とこの間買っておいたランディシャのお守りをベットの隅に引っかけて置いた。
白いローブで全身を覆ったレイチェルは、端から見ればローブ顔前から流れる美しい翡翠の髪と小さな唇しか見えない。
「それにしても……対戦相手の方は遅いですねー。えっと、ラミスサイヤさん?」
「えっ……? ええ、そうですわね」
「こっちの大会にローブで出場する方は多いんですが白ローブって言うのは珍しいですね」
「そうですか? ……あっ……来たみたいですわね」
レイチェルがそう言ってDサイドの入り口を見るとそこからは16歳位の可愛い女の子が入ってきた。
「ごっ……ごめんなさい! 寝坊しちゃって!!」
審判は少しだけきつい表情になって少女を咎めようとしたがそれはレイチェルによって阻まれた。
「いいのですよ。私も朝は辛い時がありますし……」
「そうですか……? ならいいですが、えーっと……スクエルさん! 今度やったら棄権になるので注意してくださいよ!」
「は、はい!! ごめんなさい〜!!」
「ふー……それでは、これよりー2日目午前の部第1試合目、始めたいと思います」
「よろしく」
「えっ、はいよろしくお願いします!」
レイチェルの握手ににスクエルは嬉しそうに右手を差し出した。
そしてその握手が終わったとき……試合は始った。
魔法系模擬戦闘部門は最初は本当に地味な戦いだ。
だから戦闘部門より人気が無く、予選の殆どは朝一で行なわれるのだろう。
現に今の観客だって舞上の3人以外は夜通し居続ける物好き者やそのまま寝入っている者10名くらいだけだ。
「我、スクエル・ロナウは氷上の姫の神託により姫の下部、
吹雪の嵐を使う事を許されるだろう……
されば我が掌に凍える吹雪よ! 集まり我が力となれ!!」
『ブリザード!!!』
そう言い放ったスクエルの掌には冷たい氷の粒の混じった吹雪が集まりかけ、寝ていた観客は次々にあまりの寒さに起きあがっていた。
そしてレイチェルも向かってくる吹雪に対抗した魔法を紡ぐ。
「我に従うは氷上の姫、フロアディーネ、我の命により
姫の力を我が手中に現わせよ!!」
『フロアブリザード!!』
そしてレイチェルの掌からさっきのブリザードとは比べ者にならない程の大吹雪が吹き荒れた。
「ええっ! こんな高位魔法を! 名前を使わず呼び出すなんて!!」
スクエルはそう言って最小限の防御魔法をとっさに呼び出しなんとかこの大吹雪を堪えた。
そして、吹雪と大吹雪の戦いは終わり、スクエルは杖を立ててやっと立てる状態になってしまったのだった。
「どうですか? まだやります?」
レイチェルがやさしく聞くと、スクエルは首を縦に振り、審判に自分の負けを告げたのだった。
「えーでは、スクエル選手の棄権……と言うことでこの勝負はラミスサイヤさんの勝ちですー!」
「ありがとうございました! それにしても凄いです! あんな高位魔法!! こんな安っぽい杖で呼び出せるなんて!」
「いえいえ、次はがんばってね」
そう言って尊敬の眼差しを向けるスクエルをあとにレイチェルは早々と闘技場を後にした。
「やっぱり闘技場と言うのは面白いですわv」
どうやら彼女の遊びがまたひとつ増えたようだ……。
レイチェルは軽い足取りのまま宿へと向かっていったのだった。