「遺……遺跡……?」
突然リーザの足元に現れた石造りの穴は、遺跡というに十分な物だった。
崩れかけたレンガのようなもので塞がれてはいるが、そこには昔通行路だったと思われる跡がいくつも見て取れたし、使われている石の表面は悠久の年月を思わせる色合いをかもし出していた。
二人はしばし呆然としながらも、その穴から目を離せないでいる。
現在、ラージバル大陸で知られている遺跡はクラリアットのコルトル城塞都市遺跡ただ一つで、他にはどこも見つかっていない。
加えて、コルトル遺跡はきちんとした歴史ある国の跡である。
国が滅び、その城跡が地中に埋没して遺跡となった。
何もない砂漠の真ん中で、しかもヘビを倒して現れる遺跡とは、誰が考えよう。
リーザが巨大ヘビを倒し、それがきっかけとなって遺跡が現れたのであろうか。
楽にはそれが信じられなかった。
しかし、リーザにとってはそれはどうでもいいことだった。
それを怪しむよりも先に、興味心がわき上がってきており、早く中に入ろう、と楽を急かす。
「ね、楽ちゃん! 早く入ろう!」
全身を血に染め、それとは対照的なシェプシを従え、楽を手招く。
血に染まっていることなどお構いなしに、その顔は笑顔である。
「早く!」
楽が迷っていると、もう一度リーザが言う。
……数分後、楽は入り口を覆うレンガを取り除く作業をしていた。
その間に、リーザに血染めの服を着替えてもらう約束で……。
リーザは最初それに反対したが、楽の固い意志に観念して、結局そうなった。
リーザの着替える間に、楽はレンガをどける。
楽がどけたレンガは、シェプシが遠くまでくわえていってくれたおかげでたまらずに、スッキリと作業を進めることができた。
リーザがテントから出てくる頃になると、もうだいぶレンガが取り除かれており、楽の元まで来ると、ぽっかりと口を開けた暗い穴をのぞき見ることができた。
「入り口は開きましたが……本当に入るのですか?」
リーザが近くまで来たのに気付いて、楽がもう一度聞いた。
「うん、だって、面白そうじゃない!」
……即答だった。
さらに数分後、二人とシェプシは狭い穴を何とか通り抜け、地中に潜った。
薪にしようと楽がためておいた木を何本か集め、たいまつを作ったので、暗い穴の中でも何とかまわりの様子を見ることができた。
通路は狭く、二人は列をつくって歩かねばならなかったのだが、両側の壁が今にも崩れそうなレンガでできていたため、それにも注意して慎重に歩く必要があった。
「ねぇ、楽ちゃん、ここって何にもないね」
しばらく歩くと、リーザがつまらなそうにそう言った。
確かに入り口からここまで目新しい物は何もなく、狭く細い通路が一本、延々と奥に延びているだけである。
「そうですね……あっ、リーザさん、あそこを見て下さい!」
相づちを打った楽が、突然語気を高めた。
楽の指さした方向をリーザが見ると、そこには二又に別れた分岐点が見える。
「あ……二つに別れてるよ、どうする? 楽ちゃん」
リーザの問いに、しばらく考えてから楽が言った。
「……こういうときは右に行きましょう。これから分かれ道にぶつかったら、とりあえず右に入るということで。それならば迷ったとしてもまた入り口まで戻ってくることができますし、変に迷うこともないでしょう」
「……そうだね」
二人は右の通路に足を踏み入れた。
右の通路は今までの通路と何ら変わりはなく、延々と奥へ続いていた。
左に行けば何かあったのかもしれないが、右はハズレだったようだ。
ひんやりとしたこの石の通路は、一体どれくらいの間訪問者を待っていたのだろう。
そんな風に楽が考えていると、リーザが前方を指さして嬉しそうに叫んだ。
「あっ、楽ちゃん! また分かれ道!」
見ると前方にまた分かれ道がある。
そして、今度は三つ又だ。
どの入り口も暗く、たいまつの光をかざしてもほんの少し先しか見えなかった。
そして、そこには何もない。ただの通路が続いている。
「今度も右……だよね」
「右……ですね。何処を行っても何があるか分かりませんし」
二人はまた右の通路を選んだ。
一体この遺跡はどれくらい広いのであろうか。
さっきからずっと同じような通路を延々と歩いているだけである。
砂っぽい空気に、だんだん嫌気がさしてきた二人だった。
どれくらいの時間が経過したのか分からないが、たいまつの光が弱くなってきた。
幸い、たいまつの替えは5本用意してあったので、光を失う心配はないが、このまま歩き続けたらどうなってしまうのだろう
という不安にかられずにはいられなかった。
2本目のたいまつに切り替えたとき、また分かれ道にやって来た。
今度は道が4本に分かれている。
楽は迷わず右に進もうとしたが、リーザにガッと腕を捕まれ、歩みを止めた。
「楽ちゃん、待って! あそこに、何か書いてある」
それはこの遺跡に入ってから初めての発見といえる発見だった。
壁のレンガとは違った感じの黒っぽい石がはめ込まれており、そこには何かが刻んである。
初めての発見に居ても立ってもいられなくなったリーザが、楽の手からたいまつを奪い取っていち早く石の元に駆け寄った。
が、
「〜〜〜〜〜〜〜…………読めない……」
どうやら古代文字のようだ。
召喚術師のデントやザブルならば読めるかもしれないが、ここにいるのは魔法には縁のない楽と、犬のシェプシ、そして、今読もうとして読めなかったリーザの3人だけである。
初めての発見も、内容を知ることができなければ意味がなかった。
念のため、他の3つの入り口も調べてみたが、そこには何も刻まれていない。
「うわぁ。ワクワクするね、ここには何かあるのかも! 勿論、右へ行くよね、楽ちゃん」
リーザがにっこり笑って楽に問いかける。
なんだか怪しい感じがしたが、右へ行くと最初に決めた以上、逆らうわけにはいかなかった。
二人はまた右へ進む。