楽は草の上に横たわりながら考えていた。
さっきはエルファの笑顔に負けて、『思い出の場所はたくさんある』と言ったが、楽がストレシアを訪れたのは今回が初めてのことである。
なにしろ、今まではテーヴァの道場で修行漬けの日々を送っていたのだから。
テーヴァを旅立ち、世界を旅するようになったのも、1ヶ月前の紅の月からである。
デント達と比べると、何と短い時間であろうか。
デントはラジアハンドから一人、海を越えてやって来た。
旅に慣れており、色々なことを知っている。
テーヴァの酒場町で出会い、旅初めから一緒に旅ができたことがどれほどの幸運だったのか、それが今になってようやく分かった。
一人で旅を始めていたら、ジュウマやコネッカとの出会いもなく、どこかで行き詰まってしまっていただろう。
そして今、楽はエルファと旅をしている。
13歳と言えば、テーヴァではまだ旅さえ知らない少年の年である。
自分の羽を気に掛けながら、時には歌を歌い、エルファは一人で砂漠を旅していた。
自分が13であった頃を考えると、どうしても凄いと思わずにはいられない。
できることならば、エルファを夢の男まで導いてあげたいと思った。
エルファは一人旅に慣れているようだが、二人で探した方が見つかる確率も高いような気がする。
でも、一体どこを探せばいいのだろう。
ストレシアの砂漠全てを回るわけにはいかない。
そんなことをしていたら確実に2月はかかってしまうだろう。タイムリミットの黒の月まではあと3ヶ月。
それまでには自分の力のレベルアップと、ガロンの情報だけはどうしても掴んでおきたい。
黒の月にガロンとまみえた時、前のように砂漠に倒れてはいられないのだ。
3人でザブルを救出しなければならない。
……夢の男……砂漠……エルファだけが見る同じ夢……
楽はエルファから聞いた限りでのキーワードを思い浮かべてみた。
……助けを求める男……淋しい……砂漠の夢……
!!
ふと、楽は思いついた。
『夢』だ。
同じ夢を見続けるということは、誰かがエルファに思念のようなものを飛ばしているのかもしれない。
たぶんその思念の発信源は夢に出てくる男であろう。
この思念の発信源をたどれば、男を見つけることができる。
そして、思念の発信源をたどる方法があることを楽は知っていた。
昔、アディンバルの師匠の下で修行しているとき、怪しい行商が売り込みに来た。
師匠は話も聞かずにその男を追い払ったが、楽は子供の旺盛な興味心からその行商を追いかけ、話を聞いたのだ。
その行商は色々な宝石を売っていた。
どれも普通には手に入らない物だそうで、それぞれの宝石には魔術師の力が込められているという。
陽にかざすとキラキラと光り輝き、吸い込まれそうに美しかった。
赤や青、そして黄色と、色々な色の宝石があったが、その中でひときわ目を引く黒い宝石があった。
「おじさん、これはなんて言う宝石なの?」
楽が聞くと、その行商は片方の眉をあげてこう答えた。
「おじさん、じゃなくて、お兄さん、だよ……。
まあいい。
これは“追跡の瞳”と言って、自分にかけられた呪いや魔法の発動者を知ることができる宝石さ。
何かの力を自分に送った者を黒い光で指し示す。
だから、夜はあんまり使えないんだがね。
暗黒の時代、いつ自分が呪い殺されるかと不安を抱えていた権力者がお抱えの魔導師に創らせた宝石なんだ。
もとはただの黒曜石だったが、その魔導師のおかげで、随分付加価値のついた宝石になっちまった。
俺もこれを手に入れるのは大変だったよ」
「ふぅん……どれもきれいだね」
「そうだろう?
俺はそれでこの宝石達の虜になっちまったんだよ。
今は旅をしながら行商なんぞやっているが、いつかは自分の店を持つんだ! そしたら坊主、必ず来いよ!」
「うん、わかった。
それで、おじさんの名前は?」
「……だから、お兄さん、だって……
いいさ、どうせ坊主から見たらかなり年上だしな……。
俺の名前はブルムンクス。ストレシアのブルムンクスだ。
坊主は?」
「楽だよ。今はまだ氏を名乗れないけど、いつか一人立ちするときに師匠が授けてくれるんだ!
お父さんの名前さ!」
「そうか、楽か……。
よし、楽。いつか俺の店を訊ねて来いよ。ブルムンクスの店へ。
もちろん金を貯めてな!」
最後の方は笑いながら、ブルムンクスはそう言った。
そう、ブルムンクスの持っていた追跡の瞳があれば、エルファに助けを求める男の居場所が分かるかもしれないのだ。
あれから何年も経つのだし、もうどこかに店を持っているだろう。
ストレシアの生まれだと言っていたから、もしかしたらこの辺りに店を構えているかもしれない。
それに、もうすぐ闇市が開催されると聞いた。
暗黒時代の宝石を扱う店があってもおかしくはない……。
エルファが起きたらこの話をしてみよう。
そう思いながら楽は体を起こし、剣を磨きはじめた。