ファンタジア

在村楽3

「よう、兄ちゃん。さっきからずっと立ちっぱなしで、どうした?」
 後ろからいきなり声を掛けられた楽は一瞬ビクッとしたが、男の目が澄んでいるのを見て取り、アスリースへ行くにはどうしたらよいかを訊ねた。
 男は、それには通行証が必要だと言い、通行証が無いために自分もこの町で足止めをくらっていると、不満気に話した。
 そして、自分がここに来るまでの経緯を長々と語りはじめた。

 黒髪に青い目をしたその男は、名をデントといった。
 ほっそりとした体つきだが、背は楽よりも高く、歳も楽より10以上上に見えた。
 深緑と高山の国ラジアハンドで生まれたデントは幼い頃から一人国を出て旅を始めた。
 国を出た理由は(本当のところはどうか分からないが)ドラゴン使いの両親が恐ろしくてしょうがなかったからだという。
 デントは今まで船に乗って旅をしてきたらしい。
 その船がテーヴァ近海の座礁に引っかかったため、渋々船を捨て、一番近い町にやって来た。
 そこがここの酒場町だったそうだ。

 話がこの酒場町にまで入ってくると、デントはだんだん語気を荒げ、なんで通行証が手に入らないんだよ!と、声を大にして叫んだ。
 町を行き交う人々は一瞬驚いてこちらを見たが、次の瞬間には何事もなかったかのようにまた歩き始めた。
「けっ! 他人に無関心な町だぜ!」
 デントはこう言って腰に下げていた革袋から紫色の木の実を取りだし、何個か口に放り込んだ。
 ムシャクシャしたときに食べると気が静まるらしい。
 お前もどうだ?と進められたが、毒々しいその色に気後れし、また今度……などと言っておいた。

……気付くと辺りは暗く、いつの間にか陽が沈んでいた。

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