ザブルは楽とデントを高床の家に招いた。
ジュウマも後からついてくる。
楽に飛び掛かってきた威勢はどこへやら、うち捨てられた子犬のようにおとなしくなってしまった。
「それで、あなた達は何故ここへ?」
テーブルについた楽達にジールを出しながら無表情にザブルが訊いた。
美しい無表情のその顔はデントを気後れさせる。
「あ、えっと、その……あなたに会いに」
「…………」
言ってから気付いた。
聞きようによってはなんとも場にそぐわない意味になる。
「(デントさん、どうしたんですか)」
テーブルの下で楽がデントを肘で軽く小突く。
「あ、ああ、すみません。
俺はあなたの言うように召喚術師で……しかも修行が足りません。
だから、是非あなたの元で修行させてもらえないかと思って、ここまでやって来ました」
ようやく目的を言葉にすることができた。
「…………」
ザブルは驚きもしない様子で始終無言である。
ジュウマは先程からずっとうつむいて、ピクリとも動かない。
「あの……よろしいですか?」
デントが引き下がってもう一度訊ねる。
それからしばらく考えた風だったザブルは、壁に掛けてあったカレンダーを見てこう答えた。
「今は蒼の月です。
……いいでしょう。あなたに高等召喚術を教えましょう」
デントの顔が一気に晴れ上がった。
「やった! ありがとうございます!」
「よかったですね、デントさん!」
二人は旅の目的が成功に向かっているのを知り、諸手をあげて喜んでいる。
しかし、その喜びは長くは続かない。
「それでは、早速始めましょう。……そちらの方、お名前は何と?」
楽に目を向け、ザブルが訊ねる。
「拙者は在村楽と申す者です」
「そうですか、“楽”ですね。それであなたは“デント”
……分かりました」
そう言ってザブルは奥の部屋に入っていった。
「おい、ホントに修行する気か?」
それを見計らってジュウマが不意に口を開いた。
「ああ、勿論だとも。俺はそのためにここに来た」
デントが答える。
「師匠がさっき言っただろ? “昨日無礼な輩がここに来ました”って。
その無礼な輩、たぶんサイオニックだ、が来て、“私に力を”とかなんとか言ったんだ。
すごく怪しいヤツでさ、俺も追い払おうと思って飛び掛かったよ。
でもそこで師匠に止められて……今と同じ状況だ。
それで、師匠は今と同じように名前を聞いて、あの部屋へ入って行った」
そう言ってザブルの入っていったドアを指し示す。
「それから俺とそのサイオニックはずっとこの部屋にいたんだが、奥の部屋から師匠の声で“外に出ていなさい”と言われたんだ。
俺は師匠には逆らえないから、言われるがまま、出ていった。
時間つぶしに沼で植物を見ていたよ。
そしたら……この小屋が光った。
すごく強い光だった。でも、音は無いんだ。
驚いてまたここに戻ってきたら……サイオニックの姿はどこにも無い。
師匠に“さっきのヤツは……”って聞いたら、“お帰りになりました”って……。
俺はそれ以上何も聞けなかった」
ジュウマの額には汗が数滴流れていた。
しばらく待つと、ドアの向こうから声が聞こえてきた。
「ジュウマ、外に出ていなさい」
「!!!」
三人が一斉にドアを見る。
「……また昨日と同じ……」
「俺は外に出ている……
なんて言ったらいいか分からないけど……頑張れよ……
おまえ達二人は結構好きだったんだけどな……」
ジュウマは肩をすぼめて出ていった。
ジュウマの言い様は、まるで二人がここで終わりとでもいう風である。
「何だか……大変なことになりましたね」
「……ああ」
二人は幾分か心配そうな面持ちで、ドアを見つめていた。