ファンタジア

在村楽29

 ザブルは楽とデントを高床の家に招いた。
 ジュウマも後からついてくる。
 楽に飛び掛かってきた威勢はどこへやら、うち捨てられた子犬のようにおとなしくなってしまった。

「それで、あなた達は何故ここへ?」
 テーブルについた楽達にジールを出しながら無表情にザブルが訊いた。
 美しい無表情のその顔はデントを気後れさせる。
「あ、えっと、その……あなたに会いに」
「…………」
 言ってから気付いた。
 聞きようによってはなんとも場にそぐわない意味になる。
「(デントさん、どうしたんですか)」
 テーブルの下で楽がデントを肘で軽く小突く。

「あ、ああ、すみません。
 俺はあなたの言うように召喚術師で……しかも修行が足りません。
 だから、是非あなたの元で修行させてもらえないかと思って、ここまでやって来ました」
 ようやく目的を言葉にすることができた。

「…………」
 ザブルは驚きもしない様子で始終無言である。
 ジュウマは先程からずっとうつむいて、ピクリとも動かない。
「あの……よろしいですか?」
 デントが引き下がってもう一度訊ねる。
 それからしばらく考えた風だったザブルは、壁に掛けてあったカレンダーを見てこう答えた。
「今は蒼の月です。
 ……いいでしょう。あなたに高等召喚術を教えましょう」

 デントの顔が一気に晴れ上がった。
「やった! ありがとうございます!」
「よかったですね、デントさん!」
 二人は旅の目的が成功に向かっているのを知り、諸手をあげて喜んでいる。

 しかし、その喜びは長くは続かない。

「それでは、早速始めましょう。……そちらの方、お名前は何と?」
 楽に目を向け、ザブルが訊ねる。
「拙者は在村楽と申す者です」
「そうですか、“楽”ですね。それであなたは“デント”
 ……分かりました」
 そう言ってザブルは奥の部屋に入っていった。

「おい、ホントに修行する気か?」
 それを見計らってジュウマが不意に口を開いた。
「ああ、勿論だとも。俺はそのためにここに来た」
 デントが答える。
「師匠がさっき言っただろ? “昨日無礼な輩がここに来ました”って。
 その無礼な輩、たぶんサイオニックだ、が来て、“私に力を”とかなんとか言ったんだ。
 すごく怪しいヤツでさ、俺も追い払おうと思って飛び掛かったよ。
 でもそこで師匠に止められて……今と同じ状況だ。
 それで、師匠は今と同じように名前を聞いて、あの部屋へ入って行った」
 そう言ってザブルの入っていったドアを指し示す。
「それから俺とそのサイオニックはずっとこの部屋にいたんだが、奥の部屋から師匠の声で“外に出ていなさい”と言われたんだ。
 俺は師匠には逆らえないから、言われるがまま、出ていった。
 時間つぶしに沼で植物を見ていたよ。
 そしたら……この小屋が光った。
 すごく強い光だった。でも、音は無いんだ。
 驚いてまたここに戻ってきたら……サイオニックの姿はどこにも無い。
 師匠に“さっきのヤツは……”って聞いたら、“お帰りになりました”って……。
 俺はそれ以上何も聞けなかった」
 ジュウマの額には汗が数滴流れていた。

 しばらく待つと、ドアの向こうから声が聞こえてきた。
「ジュウマ、外に出ていなさい」
「!!!」
 三人が一斉にドアを見る。
「……また昨日と同じ……」
「俺は外に出ている……
 なんて言ったらいいか分からないけど……頑張れよ……
 おまえ達二人は結構好きだったんだけどな……」
 ジュウマは肩をすぼめて出ていった。
 ジュウマの言い様は、まるで二人がここで終わりとでもいう風である。

「何だか……大変なことになりましたね」
「……ああ」
 二人は幾分か心配そうな面持ちで、ドアを見つめていた。

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