朝、夜明け前にデントは目を覚ました。
はやる気持ちを抑えきれない。
ラージバル大陸にはあまり存在しない召喚術師。
その一人に今日、会えるのだ。
楽を起こして早く出発したかったが、子供のようによく寝ている楽を起こすのは気が咎めた。
ふと、楽の持つ剣に目を向ける。
こころなしか、鞘の部分が光っているようだ。
「この鞘って今まで光ってたかなぁ……」
自問するデント。
その問いに反発するように鞘の輝きは増していった。
「……なんだ? この鞘は……さっきより光が強くなってる」
不思議に思ったデントはその鞘に手を伸ばす。
が、鞘に触れる寸前に楽が飛び起きた。
「もう朝ですか? おはようございます、デントさん」
楽には寝ぼけというものがないのだろうか、起きた途端からいつもの調子である。
「えっ、ああ、もうすぐ朝だ……」
伸ばしていた手を慌てて引っ込めながら、デントが答える。
鞘を見ると、先程の光は消え失せていた。
鞘の金模様が何かの光を反射して光っているように見えたのだろうか。
「どうかしましたか?」
じっと鞘を見ているデントを楽がいぶかしむ。
「いや、何でもないんだ……
……おまえのその剣の鞘って光を放つのか?」
「……いいえ、普通の鞘です。光る鞘なんてみたことありませんよ」
おかしなことを訊くデントに楽が笑いながら答えた。
「そうか、そうだよな」
腑に落ちない顔をしていたが、これ以上は楽に聞いても分からないと悟ったデントは気持ちを切り替えた。
「よし、それじゃぁ行くか! 出発だ」
こうして、森での新しい一日が始まった。
暗黙の了解から、二人は入り江沿いに回って湖沼地帯に向かった。
もう森の中をかき分けていくのはこりごりだった。
しばらく歩くと、森全体が少し明るくなった。
加えて、周りの木々の種類も先程までとは少し違うようだ。
二人は第4の森、ファンベラの森に入った。
レブルの森とは違い、この森は随分と先まで見渡すことができる。
そのためか、湖沼地帯を見つけるのに時間はかからなかった。
「あっ、デントさん、見えましたよ!」
最初に見つけたのは楽だった。
楽の指さす方向をデントが見ると、生い繁る木々の向こうに開けた土地が見えた。
湖沼地帯と聞いていたが、実際には大きな沼があるだけのようだ。
湖の姿ははどこにも見えない。
しばらく二人で眺めていると、突然楽が声をあげた。
「あそこに家が見えます!」
人工のものを見るのは何日ぶりだろうか。
二人は、ただ家を見つけただけなのに、諸手を挙げて喜び合い、進路をその家に向けて歩き出した。
近くまで来てみると、その家が小さいこと、沼がとてつもなく大きいことが良く分かった。
「すっごい沼だな、ここ……」
デントが感嘆の声をあげ、楽が相づちを打った。
一人ではまりこんでしまったら二度と抜けられない、目の前一面に広がるその沼は、そんな風な印象を与える。
「どうだ、大きな沼だろ?」
突然背後から声をかけられた。
驚いて同時に振り返る二人。
二人の目には見上げるほどの獣人の大男が映った。
「あ、あなたは?」
楽が訊ねる。
「俺か、俺はジュウマってんだ。師匠のボデーガードをやってる」
「ボデーガード?」
「えっと、ちょっと違うな……そう、ボディーガードだ!」
考えた末、誇らしげにジュウマが言った。
「ボディーガード、ですか……」
「そう、ボディーガード。かっこいいだろ?
ところで……おまえ達も師匠に会いに来たのか?」
「……師匠? もしかして召喚術師の?」
デントは目を輝かせて訊ね返すが、逆にジュウマの顔つきは厳しくなった。
「そうだ。俺の師匠、ザブルは召喚術師。
その師匠に会いに来たのかと聞いてる。答えろ」
幾分けんかごしに、ジュウマが答えを迫る。
答えによっては、今にも襲いかかられそうな雰囲気だ。
しかし、そんな雰囲気をもろともせず、楽は答えてしまった。
「そうです」
その言葉が発せられると同時に、案の定、ジュウマが飛び掛かってきた。