主人が死んだ。
別に深い意味があったわけではなくただの老衰だった。
しかしそのことがクロスドに深い悲しみを与えたわけではない。
もはや蛋白質の固まりとなったその存在に思い入れするほど彼に情があったわけではない。
むしろ怨んですらいた。魔法生命として絶対的な支配下にあったこと、それ故にやりたくもないことを命令されたこと、死という自由すら与えられないこと、何よりこの世に生み出されたこと。
老錬金術師の遺体を前に笑みさえ浮かんだ程に。
しかし、その日以来クロスドの心には何か確実に欠けたモノがあった。
その心を埋めるため飲めない酒も飲んだ。倒れるほど働いた。しかし、空虚な心は満たされはしない。
理由は分かっている。しかしそれを認めることは彼にとって辛い認識となる。
魔法生命とって主人とは絶対的な存在。
不本意な主人とは言えそれを失うことは、半身を失うことと等しい。
所詮どんなにそっくりに作られても人形は人にはなることは出来ない――。
そんな事実を突きつけられる結果となって彼は思った。
――旅に出よう。そして自分が本当に仕える主人を捜そう――
と。
彼はその日のウチに村を出る。
二丁の6連射式リボルバーと一枚のコインをその手に持って。
――そして現在。彼は至極迷っていた。
二股に分かれた道。しかし彼にはどちらの道に行けばいいか分からない。
クロスドはぽりぽりと仮面を掻く。
そして、ポケットからコインを一枚取り出す。
それは旅の当初より彼が持ち歩いたモノ。
表が出たら右、裏が出たら左――そんなことを思いつつコインを指ではじく。
どちらが出ても良い。
どうせ急ぐ旅でもないのだから……。