ファンタジア

在村楽13

「おい、行っちまったぜ……」
「……追いましょう!」
 さっきまでは気味が悪い洞窟としか思えなかったが、人が住んでいると分かった今では随分と気持ちが違ってくる。
 暗闇しかないと思っていた洞窟内にはまるで道を示すかのように点々とヒカリゴケが生えていた。
 おそらくこれをたどっていけばコネッカのもとへたどり着けるのだろう。

 コネッカの足は速く、なかなか追いつけなかったが、それでも若い二人の脚力にはかなわない。
 場所はどのあたりか分からないが、やっとの事でコネッカを捕まえることができた。
「おい、待てよばあさん。もっと話を聞かせてくれ」
「…………」
 コネッカはうつむいたまま沈黙している。
「コネッカさん、お願いします」
 楽が頼み、しばらくの沈黙の後に急にコネッカが顔を上げた。
「……しかたないのぉ」
 そう言うコネッカの顔は笑っていた。
「実はわし、おまえさん達が追いかけてくるのを待ってたんじゃ。
乙女にとって殿方に追いかけられるのはなんとも心地よい事じゃでの。
フォッフォッフォッフォ」
 今度はデントと楽の二人が沈黙する。
 何と言って言葉を返したらよいか分からない。
「つまらん奴らじゃの……。
まあいい。わし、今は気分がいいから何でも答えるぞぃ」
 顔の表情からもコネッカが上機嫌なのが良く分かる。
 先に立ち返ったデントが早速訊ねた。
「さっきばあさんため息ついただろ? あれ、何でだ?」
「ああ、あのため息かの……あれはの、わしの努力が外の人間にまったく伝わっていないことにガックリきたんじゃよ」
「ばあさんの努力? ここで何かしてるのか?」
「そうじゃ。わしはここできゃつらを抑えておる。
毎日外に出たがるきゃつらを抑えるのもなかなか骨の折れる仕事じゃぞい」
「それでは、あなたがいらっしゃらなかったら町は……」
「もう滅びていておかしくないのぉ」
 得意げにコネッカが言う。
「でも、奴らは夜になると外の酒場町を覆ってるぞ。
ばあさんの抑えも歳と共に衰えてるんじゃないのか?」
ニタニタ顔でデントが意地悪くコネッカにつっかかる。
「夜はしょうがないんじゃ。わしじゃて人間。睡眠無しに生きてはゆけぬ。
夜はぐっすり夢見る乙女じゃて、きゃつらの事はスッキリ忘れて寝ておる」
 満面の笑みをたたえたコネッカが言う。
「ばあさん……よく恥ずかしげも無くそういうこと言えるな……」
「フォッフォッフォ、わしじゃて昔は乙女じゃ。
誰もいないこの洞窟で一人そんな気分でいたって良いじゃろ。気にするでない」
「まあ、いいけどな……。
それにしても、何で一人でこんな所に入る気になったんだ?
やっぱり魔力が一番あったから選ばれたのか?」
 デントが、楽の思っていた一番の疑問をコネッカにぶつける。
「それもあるがの……一番の理由は、町の為じゃ。
わしは自分の生まれ育ったあの酒場町が好きじゃで、どうにも潰したくなかったんじゃ。だからこの役を買って出たんじゃ。
その時の契約にはビックな特典が付いていての、わしの巨像が町の中心に建てられるというものじゃ。
しかし、おまえさん達がわしを知らないと言うことは、わし、騙されたんじゃの……くやしいのぉ……」
 またまた二人は何と言って良いか分からず、沈黙するしかなかった。

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