ファンタジア

在村楽12

「なっ……何なんだ! 誰なんだ! どうなってる!?」
 驚きの連続にデントはもうパニックに陥っている。
「どうもこうもない。おまえさん達がわしの住処に入ってきたからこうして出迎えてやっただけじゃないか。なにか不満かぇ〜」
 妙に間延びした声で嬉しそうに老婆が言った。
「あの、失礼ですが、こちらに住んでいらっしゃるのですか」
 一瞬驚いたものの、持ち前の精神力で落ち着きを取り戻した楽が訊ねる。
「そう言ったじゃろ。わしはここに住んどる。
外の人間に会うのは何年ぶりかのぉ……いやはやなんとも久しぶりじゃ。
おまえさん達、わしに何か用かぇ?」
 満面の笑みをたたえて、今度は老婆が訊いてきた。
「いえ……拙者達は……他の目的があってここに来ました」
「ほぅ……この何もない洞窟にかぇ」
「何も無いだって! さっきまでウジャウジャとドラゴンフライがいたろ!
どうして急に奴らは消えた? あんたはどこから出てきた?
ここは何なんだ? あんたは誰なんだ? いったいどうなってるんだ?!」
 未だ混乱の渦の中にいるデントは怒鳴り気味の質問を老婆に浴びせかける。
「そっちのボウヤはちぃとばかりうるさいね。話しもできん。
……そうじゃ! この前作った気付けの薬をやろう」
 そう言うと老婆は、腰に下げた革の袋から妖しく光る薬瓶を取りだし、暴れるデントを驚くほどの力で押さえつけながら、無理矢理それを飲ませた。
 デントは一瞬ぐったりとなったが、すぐに目を開け、いきなり立ち上がった。
 中身はどうか分からないが、
 外から見た感じではさっきよりも落ち着いて見えた。
「やっぱりわしの薬は良く効くのぉ。
それじゃぁさっきの質問に答えるとするかね。
まず……わしはコネッカ。ソーサレス、コネッカじゃ。
名前くらい聞いたことあるじゃろ? あの有名なコネッカ」
「いえ……拙者は存じませんが……」
「俺もそんな名前聞いたこともないぜ」
「……そっ、そうかのぉ。時代は変わったんじゃな……」
「そんなことより、早く続きを教えてくれよ」
「あ、ああ、そうじゃの。わしはコネッカ……あっ、これはもう言ったのぉ。
ここはレッドドラゴンフライの巣で、わしは、おまえさん達の声が聞こえたんで奥から歩いてきた。
レッドドラゴンフライの後ろからじゃがな。
そして、今にも喰われそうなおまえさん達を見て不憫に思い、ドラゴンフライの大群をまた洞窟の奥に送り返したんじゃ。
これで説明は終わりじゃ。全てに説明がつくじゃろ?」
「ま、まあな。ソーサレスならこれくらいやったっておかしくない。
ましてや、昔は有名なソーサレスだったんだろ、ばあさんは。
それで……どうしてこんな所に住んでるんだ?」
 デントがそう聞くと、コネッカは目を見開いて驚いた。
「おまえさん、そんなことも知らないのかい!?
はぁ……わしはが今までやってきたことは何だったんじゃろう……」
 コネッカは深くため息をつくと、洞窟の奥へと歩き出していった。

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