「ああああ!!」
ギャインッ!
ルンドの強烈な一撃が兵士の剣を真っ二つにする。
その兵士も衝撃で吹っ飛び、指揮官格の男の横まで転がった。
「くっ……」
その様子を男は、驚愕と怒りの入り混じった表情で見る。
ルンドはクォートをぶんと振り、敵を威圧する。
勝負はとっくについていた。
兵士たちは剣を構えながらも切り込もうとせず、引け腰気味になっている。
「へっ、口ほどにもないじゃん」
アルフェリアが挑発すように言う。
「こ、こんな所でてこずるとはっ」
「……どうでしょう。この辺で、お引き取りくださいませんか?」
レイチェルは隙の無い、優雅な動きで前へ出る。
それだけで、兵士たちの包囲は一気に後退する。
「これ以上、お続けになると言って欲しくはありません。きっと、死者が出てしまいますから」
「お、おのれぇ……」
苦虫を噛んだかのように、顔をしかめる。
「くそっ、撤退だ!」
そう吐き捨てるように言うと、そいつは宿を出ていった。同時に、兵士たちも情けないぐらい素早く宿を去った。
そして、嵐の後のなんともいえない静けさが訪れる。
「…ふぅ。なんとかなりましたわね〜」
レイチェルは、いつもののんびりモードで呟く。
「一時はどうなるかと思いましたわ〜」
「レ、レイチェルさま! お怪我はありませんでしたか!?」
ようやく怒りが引いたルンドははっとして、レイチェルに駆け寄る。
「ええ、大丈夫ですわ〜」
ルンドは、どこか切ってはいないか、血は出していないか、なんだかんだとレイチェルに言い寄る。
「おーい、俺には何も無しかよー」
アルフェリアは一人忘れ去られているようで、ムッとして言った。
「レイチェル様が無事だったのは俺のおかげだぞ」
「ああ、そうか。それは、礼を言おう」
ルンドはちょっと身体を向けそれだけ言うと、またレイチェルの方に向き直す。
「ええっ。それだけ? あのさあ、前から言いたかったんだけど……」
アルフェリアがルンドに突っかかろうとした時、その間にレイチェルが割って入った。
「まあまあ、これでもルンドはすっごく感謝しているのよ〜」
そう、間延びした言葉でアルフェリアを抑える。
「それより〜、リオさんたちは無事逃げられたのでしょうか〜」
三人は、裏口から逃げて行ったリオたちの事を思った。
話は少し戻る。
「こっちだ!」
酷く騒がしい宿の裏口から、人が三人走り出る。
フォルクス、リオ、セザールだった。
「馬に乗って逃げるぞ。二頭しかいない。ファルクス、リオさんを頼む」
納屋から馬を二頭外に出してきて、乗る。
「こっちだ!」
「どこに行くんです!?」
先行するセザールにリオと共に馬に乗るフォルクスは叫ぶ。
「……あては、あては有る! ついて来い」
そう言うと、周りに十分気を配りながら走り出した。
どれくらい走ったか、日は既に高く昇っているはずだ。厚い雲のため、よくわからないが。
「なあ、そろそろ疲れたろ。ちょっと休むか?」
俺は馬のスピードを少しゆるめ、フォルクスの横についた。
「あ、ええ。俺は大丈夫だけど、リオが辛そうだ」
フォルクスは、後ろのリオを気にしながら言う。
「いえ、わたしはまだ大丈夫です」
彼女は気丈にもそう言うが、疲労は目に見えてあった。
「いや、休もう」
そして、適度にの木立のある開けた場所で休憩を取ることにした。
「ほい、リオさん。こいつを舐めな。疲労回復になる。フォルクスも、ほら」
と、バッグから小石大の赤っぽい玉を渡す。
「どうも。……。あ、酸っぱい」
「ああ、そうだろ。けど、これが効くんだよ」
と、俺もそれを口に放り込んで言う。
その時俺は、フォルクスはにじっと見られていることに気がついた。
「ん? なんだ、フォルクス」
「あ、いや。セザールさん、あんた、もしかしてアカデミーから追い出されたあのセザールさん?」
突然の突拍子も無い質問に俺は少しぽかんとする。
「あ、ああ。そうだ、確かに、アカデミー
を追い出されたセザールは俺ぐらいなもんだろうな。なんで知ってんだ?」
すると、ふっとその白い顔に驚きの色がかかった。
「やっぱり。俺もアカデミーにいた人間です。噂はいろいろ聴いています」
「へえ、そうかい。そりゃあまた、……なんて言ったらいいんだ?」
ここで俺はやっと一つの事を思い出した。
「ああ、そうか。アルケミストに白子がいるって聴いてたけど、おまえの事か。そうかそうか、一度も会った事無かったなあ」
お互い、噂にだけ聞いたという不思議な結びつきに少し微笑む。
「ええ、俺はセザール師の講義とってませんでしたから」
「おいおい、師なんて付けるなよ。もうそんなんじゃないんだし。しっかし、こんな所で会うなんて不思議な巡り合わせだなあ」
俺とフォルクスが盛り上がっていると、ずっと押し黙っていたリオが立ち上がった。
「あの、そろそろ、行きませんか」
その表情はまだ硬く、暗かった。
「あ、ああ。そうだな」
まだ、不安が拭い去れないのだろうか。
そう言って、俺は立ち上がる。
「そう言えば、これからどこに行くんですか? あてがあるって言いましたよね」
フォルクスも立ち上がりながらそう聞く。
「ああ。そうだな。これから行くところは、ここからずっと南西に行った所にあるリルクリルの町だ」
俺はバッグからガサガサと地図を取り出す。そして、テーヴァとアスリースを切り分けるように連なる山脈の西の端を指す。
「ここにテーヴァからの関所の一つがあって、そのちょっと北に出たところだ」
その場所を指しながら、静かに言う。
「ここに、俺の古い知り合いの医者がいる。もうだいぶ会っていないけど、きっとまだ居るだろう。ちょっとばかりご高齢なんだけどな、これ以上ない協力者になってくれるはずだ」
まあ、ちょっとだけまだ生きているかどうかという心配もあるけど。んー、あの人がそう簡単に死ぬわきゃないかな。
「じゃあ、そこに急ぎましょう。追っ手が来るかもしれないし」
「ああ、そうだな」
そうしてまた、馬にまたがった。