「全く、あの方は何をお考えなのか……」
ラージバル大陸最西の国、ラジアハンド王国。
その国でただ一人のビショップの私室でこの国では珍しいダークブルーの髪の青年が、ため息混じりで佇んでいた。
透き通った茶色の瞳、 笑うという動作を一度も試みたことがない様な冷酷そうな顔立ちを持ち、ラジアハンド王国の「最高位騎士」にあたる者だけが身に付けることを許される王家紋章を胸部に刻んだ鎧に身を包み、「世紀の名剣」と歌われる潤剣クォートを携える青年。
名を「ルンド」と言う。
その部屋は青一色で統一させてあり、部屋の主の趣味の良さを物語っていた。
窓の外から紅の夕日が部屋を赤々と照らしていくのをルンドはただじっと眺めていた、そしてまた溜息混じりに独り言のように呟いた。
「まあ、今に始まった事じゃないか……脱走は」
そう言いつつ、近くにある椅子を引き寄せた。
しかしその椅子の上にはこの部屋の主……いや、彼女が今日居たならば着ていたはずの美しい十字の刺繍が入った最高級の神官服が丁寧に畳まれていた。
それを見ると、ルンドはまた大きな溜息をひとつついた。
その仕草が彼の、どこか冷酷そうな顔立ちを裏切っていて異様な感じがする。だが、その後に気が付いた様に苦笑するところから、これが癖になっていたことを認めている様だった。
(しかし、今回の脱走は今までと違う。いつもなら私に一声掛けてから行くのに{脱走するのに一声掛けるとはおかしな話しだが}今日はそれが無かった。
私に言い残して行くのは事を荒立てて欲しくないということからくる行動だと思っていたが……まさか誘拐!?
……いや、そんなはずは無い、そんなことをすればあの方の力で即座に叩きのめされるのがオチだ……ではどうしたというのだ?)
そんなことを考えていると、段々心配になってくるのが人の常というもので、ルンドもそれにそぐわず顔に焦りの色が見えてきた。
(…………嫌な予感がする…………)
しかし、瞼を閉じ、何かを吹っ切ったように勢いよく開くと即座に冷静さを取り戻し、兵を呼び寄せ、レイチェル猊下が失踪した事を王に報告するように命じた。