ファンタジア

在村楽1

 外敵の侵入を拒むかのようにそびえ立った山に囲まれた国、テーヴァ。
 三日月の夜、その国の城下町に一人の幼子が生まれた。
 名を楽(らく)という。
 父親は剣職人で、母親はその剣の鞘に彫刻を施していた。
 この二人が創った剣には不思議な力が宿っており、大陸全土から剣の注文が殺到していたため、毎日が忙しく、楽は一人その様子を見て育った。

 そんなある日、突然両親が消えた。
 朝、楽が目を覚ますと、両親の姿は影も形もなく、外に出て声を限りに叫び呼んでも、そこにあるのは朝の静寂だけだった。
 手紙も何も残されておらず、楽は一人途方に暮れた。
 まだ幼い楽はどうすることも出来ず、ただ毎日を泣いて過ごした。

 そんな様子を見るに耐えかねた城下の道場の主が楽を引き取り、育てることになった。
 この道場では、師範である主が弟子達に剣術を教えていた。
 精神の統一、剣の構え、剣術の心得などを丁寧に教えるこの道場からはたくさんの剣の達人が生まれた。
 ラジアハンドのセフィーダ、アスリースのテラ=ドラ、クラリアットのオルドラン、ストレシアのジェント……
 名の知れたこれらの剣士達は、幼い頃この道場で腕を磨き、そして各地へ旅立っていったのだ。

 自分の家があるという安心感からか、次第に元気を取り戻していった楽がこの剣術に興味を示しはじめるのにそう時間はかからなかった。
 幼い頃から剣を見て育ったからか、一度剣術を習い始めるとメキメキと頭角をあらわすようになった。
 そして、毎日早朝から剣の稽古に励み、人一倍剣術に没頭する楽を道場の師範は実の息子のように思うようになっていた。

 楽が道場に来てから8年が経とうとしていたある日、師範は楽を呼び“在村”の氏(うじ)を名乗るよう命じた。
 道場主から氏を与えられるということは、自立=旅の時を意味する。
 一人前と認められたことに嬉しさを感じる反面、この国、テーヴァしか知らない楽にとって、それは恐ろしいことでもあった。
 しかし、幼い頃の両親の失踪、そして外の世界への興味がその恐れを上回り、楽は旅立つことに決めた。
 この故郷テーヴァから……。

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