ファンタジア

ヘスティア11

「エルファ君…」
 小声でヘスティアはエルファに話しかけた。
「なに?」
 エルファはあまりの苦さに眉をしかめながら答える。
 見ると、ヘスティアは一口飲んだだけでその怪しい飲み物はテーブルの上に放置されている。
 苦いといいつつ律儀に飲み干そうとしている自分に気がつき、慌ててヘスティアに習ってコップをテーブルの上に置いた。
「逃げよ。何かおかしい気がするんだけど…」
「賛成・………」
 飲むのをやめたのにまだ口の中に苦さが残っている。
 気分が悪くなりそうだった。
「…っていうかエルファ君、走れる?」
「……やばいかも…」
 エルファのコップの中の飲み物?は既に半分くらいになっている。
 よくもまあここまで飲めたものだ、とヘスティアは変なところで感心した。
「ま、少しなら平気でしょ…さて、逃げよう」
 ヘスティアも一応シーフのはしくれだ。母の行方が知れなくなった後、父をあてにはせず今までずっと一人で生きてきた。
 小さな少女…歳はその辺の人間よりもはるかに上だったが…がこの国で生きていくのは簡単な事ではない。
 スリや泥棒くらいしないと野たれ死ぬだけで、気が付いたらシーフのはしくれになっていた。
 環境上、さまざまな薬物や毒の味を知っているヘスティアは咄嗟にその『キュア』とかいう見るからに怪しい飲み物に何か入っていないかを頭の中で調べた。
 覚えている限りの毒物と重ね合わせてみたが、結果としてこの飲み物には不審なモノは入っていないようだった。
 (この渋さと色は多分ノール地方辺りのフェンテスティね…でも香りからしてもっと色々なものが入ってる…)
 再び始めたヘスティアの思考をエルファが止めた。
「…どうかした?」
「あぁ、なんでもない。そうだ、逃げるんだったわね」
 我に返ったヘスティアは今自分達がなにをしなければいけないのかを思い出すと、エルファの耳元で一言二言喋った。
「…分かった」
 エルファがうなずく。
 この少年、真剣になった途端吐き気はおさまったようだ。
 ヘスティアもそれを見てうなずいた。
「よし、実行…!!」

 そんな二人を離れたテーブルで先ほどからずっと見ていた一人の少女。
 彼女はこそこそと話し出した二人を見て。微かに微笑んだ。

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