アルサロサを出てから半日ほど。
陽もそろそろ西の空に沈み始めている。二人は――レイチェルはルンドの背中でまだ寝ている――野宿を覚悟していたのだが、街道沿いに小さな宿屋を見つけることが出来た。
「ラッキーv 野宿はしないで良さそうだな」
「これならレイチェル様にゆっくり休んでいただける」
二人の意見は一致し、その日はその宿に泊まる事となった。
けれど、アルフェリアはあとでそれを激しく後悔することになる……
ルンドは部屋を取ってすぐに、レイチェルをベッドに寝かせた。
「なぁ、オレ夕飯食いに行くけどルンドはどうする?」
問いかけたのはもちろんレイチェルのことがあるからだ。
ルンドの今までの行動を見ていると、レイチェル一人置いて……ということはあまりしないような気がする。
そうして、その予想通りルンドはここにいると答えた。
「わかった、んじゃついでだからあとでなんか持ってくるよ。まさか何も食わないつもりじゃないだろ?」
「ああ、頼む」
ルンドの短い答えを確認し、アルフェリアは下に向かった。たいていの宿屋がそうであるように、ここも一階が食堂になっていた。
その辺のカウンター席で軽く何かを食べようと思っていたのだが……
あまり賑やかでもない食堂に見知った顔を見つけた。一瞬気のせいかとも思ったのだが彼女を見間違えるはずはない。
……彼女は昔、アルフェリアにとって唯一の、オアシスのような存在だったのだ。
ヤベっ!!
慌てて二階に戻ろうとしたのだが、その行動が逆に目立ってしまったのだろう。後ろから彼女の呼び声がかかった。
「アルフェリア様!?」
あっちゃーーー
無視しようかとも思ったが、アルフェリアが言葉を返す前に彼女がこちらに駆け寄ってきた。これでは逃げようがない。
がっくり肩を落としつつ、とりあえずせめてもう少し人のいないところに移動したのであった。