優しい母と、頼れる父。
けして裕福ではなかったものの、アルフェリアはごく普通に幸せに暮らしていた。
その幸せは家に訪れた一人の客人によって壊された。
アルフェリアはその時初めて知った。
母の実家が、優秀な魔法使いを何人も輩出している貴族の出であることを。
当時、母には家が決めた婚約者がいたらしい。けれど母は父と一緒に暮らすために
駆け落ちという形で家を飛び出してきたのだった。
客人は母の実家の人間で、母を連れ戻しに来たのだ。
母は言うまでもなく、アルフェリアも一応一族の血を引いているということで無理やり母の実家に連れていかれることになった。
最後に見た父は泣いていた。
あれから十年経った今でも思う。どうして父は追ってきてくれなかったのだろう、と……
それからは幸せという言葉からは縁遠い毎日だった。
周りの大人達はアルフェリアに冷たかった。
それでも最初のうちはある意味では大事に扱われた。
一族の跡取として、知識や礼儀を徹底的に叩きこまれた。アルフェリアの体調などお構いなしで、部屋から出ることも滅多に無くなった。少しでも反抗すれば容赦の無い体罰が待ちうけていた。
そうして、アルフェリアはいつのまにか感情を押し殺すようになった。何を言われても何をされてもすべて無視するようになり、自発的な行動も言葉も少なくなって、言われたことに従う……それだけがアルフェリアの毎日になった。
母の実家に連れて来られてから数年後。アルフェリアに弟が生まれた。
母の意思に反して無理やり成立させられた結婚と出産による心労からか、母は弟を産んですぐに亡くなった。
そうして、アルフェリアは一族にとって用無しになった。
しかし一度は正式に引き取られたのだ。このままでは次の当主は長男であるアルフェリア。
一族の者はそれが気に入らなかったらしい。彼らはあの手この手でアルフェリアを追い出そうとした。
アルフェリアだって本当はさっさと出て行きたかった……けれど頼る者も何も無い外に出てやっていく自信が無かったのだ。
そんなアルフェリアの考えをひっくり返すような事件が起きた。
夜中、屋敷の中での出来事だった。部屋に数人の夜盗が押し入ったのだ。しかしそれが夜盗でないことはすぐにわかった。彼らはアルフェリアの命を狙っていたから。
なんとか暗殺者を撃退したその夜のうちにアルフェリアは家を出た。
ここにいても外に出ても命の危険があるなら外の方がマシだと判断したのだ。
十歳になったばかりの頃、アルフェリアは良い思いでなど一つも無い屋敷を後にした。
生き抜くために……