ファンタジア

ルンド2

「それでは、そなたはレイチェルを連れ戻すために自らも捜索隊に加わりたいと申すのだな?」

 王国の中心にあるラジアハンド城。更にその核とも言える豪奢な王室の玉座に腰を据える人物、ラジアハンド王が片膝を付いて第一級敬礼をしているダークブルーの髪の青年、ルンドに半ば確かめるように問いただした。
「自分勝手な行動であることは分かっております。しかし、この身はレイチェル猊下に忠誠を誓った身。猊下にもしものことがあれば、私はこの身を誰に捧げればよいのでしょうか!?」
「私情を持ち込むでない! そなたには何百という部下がおろうが、その者達のことは一体どうするつもりなのだ?
 指揮官がいない隊ほど不備の事態が起きたとき機能せず、乱れるもの。そなたともあろう者ならそのようなこと、百も承知のはずではないのか!?」
 静かな怒りを見せる王の冷たい目、強い威圧感を正面から受け止め、ルンドは自分がなぜ王に盾突いてまでレイチェルを心配するのか分からなかった。

 (……らしくないということも十二分に承知している。
 昔はこんな私情に走ることは一度たりとも無かった。
 今私を動かしているのはあの方への忠誠心であり、その他の感情で行動しようとしているのでは無いのだ……)
 自分に言い聞かせるように頭の中にその言葉を刻み込み、もう一度説得しようと口を開きかけたその時だった。

「閣下、お待ち下さい」
 いきなり会話に割り込んできた言葉に王は眉根を寄せたが、ひとたびその言葉を口にした人物を見て取るや否や明らかに不満を表情に出して憮然と言い放った。
「グレッタよ。そなたまでもがこの私に意見するというのか」
 グレッタという名を聞いてルンドは思わず振り返った。

 ラジアハンドに一番多いといわれている金髪の髪、
 エメラルドマリンという世界でも珍しい瞳の色を持ち、
 ルンドと同じ型の鎧、すなわち「最高位騎士」の称号を持つ者だけに装備することを許された「パロル」に同じく身を包んだ男、グレッタは王以上の強い意志でもって言葉を続けた。

「閣下、僭越ながらこのグレッタ、閣下にお願いがございます。
 そこに居りますルンド警護騎士の精鋭部下、六百余名を我が隊に一時移隊いただきたいのです」
 驚いたのはルンドだけで無く、王も同じだった。
 ルンドは、レイチェルよりも王に強い忠誠を誓っているはずのグレッタが、なぜ王に逆らっている自分の肩を持つのか訝(いぶか)り、王は、なぜ自分の周りにはこんな勝手な行動を起こそうとする者が多いのかと驚きと伴に頭を悩ませた。

 暫くして、頭を悩ませていた王は半ば決心したように半ば投げやりのように、しかしはっきりとした口調でルンド、グレッタに言い放った。
「よろしい、そこまで言うのならばルンド、そなたにはレイチェル捜索に加わることを許そう。しかし、レイチェルを連れて戻るまでこの城の門はくぐれないと思うがいい。
 グレッタ、そなたの先ほどの言葉嘘偽りではないことを認める。
 明日からルンドの隊の兵すべてをそなたに預ける、ただし隊を同じにしたことで役目を充分に果たせなくなったという言い訳は出来ないものと承知するがよい」

 頭を垂れ、退室しようとするルンドをグレッタが後ろから肩を掴んで呼び止めた。
「ルンド、話がある」

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