「そっちじゃないわ!!」
「えーっ……と。こっちですか?」
「んーーー。もーちょっと左ね」
「ココですね?」
「あっ! やっぱりもうちょっと左!」
「ええっ!! って、わーーーー!!」
---------ドシーン!
「あら? 大丈夫ですの〜?」
男女の使用人達がもうすぐ開かれる舞会の為に城の美しい廊下や応接間などに鮮やかな装飾を施している。
レイチェルは舞会事態の大きな目的は嫌いだが、こういった準備の為にいろんな事をして城の雰囲気を変えていく……というのは好きであった。
そのため、率先して装飾部隊を引き連れて朝から作業にあたっていた。
今は丁度、男の使用人がはしごからバランスをくずして落ちた所だった……。
使用人のまだ若い青年は駆け寄ってきたレイチェルを見ると恥ずかしそうに(無い)誇りを払い落とした。
「大丈夫ですの〜?」
「はっ……はい! 大丈夫です! 猊下」
「そう、よかったわ〜危ないから気を付けてね」
「レイチェル様! いいのですよ、この人ったらドジで落ちたんですから!」
青年の後ろから少しつり目の少女が顔を覗かせて言った。
青年は何か反論したそうに振り返ったが、結局言い出せないまままた作業に戻って行った。
「ふふ。あいかわらず厳しいわね〜ミランダ」
「いえ、大急ぎで準備しないと間に合いませんからね。それに、ココ(廊下)の責任者は私ですから……レイチェル様が恥をかかないように最高の廊下にしてみせますわ!」
「ええ、お願いするわ〜がんばってね」
「お任せください。レイチェル様はこれからどちらへ?」
「えーと。なんでも当日に着るドレスの試着をしてください!って裁縫担当の子達がうるさくて〜」
「ああ、そうなんですか。けど、レイチェル様のドレス姿も私、初めて見ますわ! 当日一番の楽しみですの!」
「あまり面白いものではないわよ〜まだ身体は子供だし」
「そっ! そんな事ありませんわ! レイチェル様は……」
「ふふ。けどありがとう。言って貰えると嬉しいわ〜。
だけど、あのドレスの息苦しさは何とかならないものかしらね〜」
「まあ、それは。慣れですからしかたありませんわね」
そうして、レイチェルはミランダの元を後にすると裁縫担当の者達に呼びつけられた一室へと向かった。
「ここですわね〜」
ガラリ。と扉を開けると……
そこにはレイチェルを今か今かと待ち続けていた使用人達が溢れていた……。
「みんなっ!! レイチェル様が来たわよ!!」
「デザインはコレっ!」
「まずはウエスト計って!」
「次はたけはかって」
「次は----(以下永遠)」
そんなこんなでレイチェルがその場から解放されたのは6時間後だった……。
その頃には、一瞬戦場と化した一部屋も落ち着きを取り戻し。
驚異的なスピードでレイチェルのドレスはしあげに入っていた。
疲れた表情で自室に入るとき、レイチェルはふと……思った。
「裁縫メンバーの人ってあんなにいたかしら〜?」
裁縫担当者は何故か応募者が殺到し、抽選と言う形になったはずだが。
何故かさっき居た人数がその当選者の人数より多いものだった。