その後の騎士団の動きは見事なものだった。
隊長の指揮の下、騎士達が機敏に動く。
あっという間に楽達を回収し、近くの町・ザクまで運んだ。
隊長は騎士達に何やら指示を出して、そのまま砂漠へと戻って行き、3人はザクの宿屋へと運ばれて軽いヒーリングを受けた。
しばらくの後、3人は目を覚ました。
そして、宿に残っていた一人の騎士から砂漠でのことを伝えられる。
「くそっ!
あいつの一撃で伸びてしまうなんて、俺は!!!
師匠が、師匠がさらわれてしまった……」
「仕方がない。
奴との……ガロンとの差は大きすぎた。
たとえ奇跡が起きようとも、今の俺達では到底太刀打ちできない。
奴の術中はまってそのまま気を失った俺でさえ、その差がわかる。
直に攻撃を受けたおまえ達なら身にしみて圧倒的な力の差が判るんじゃないか?」
やけに冷静なデントが、今にも暴れ出しそうなジュウマをなだめる。
一人うつむいていた楽がポツリと言った。
「それでも……その差がわかっていても、何もせずにはいられない……」
「そうだろ、そうなんだ。
大事なのはこれから何をするか、だ。
終わってしまったことはしょうがない。
ザブルさんがさらわれたこと、これはどうしようもない事実だ。
ご丁寧に、奴は俺達に言伝をして去っていった。
『黒の月にまた戦う』ってな。
俺達に『力を増しておけ』とも言った。
だから俺達は、くやしいがそれに従う他はない。
奴がどこへ行ったのか、どういうつもりかはわからない。
解っていることは、奴が黒の月にまた現れること、そして、そこで勝てばザブルさんを助けられることだけだ。
それで、だ。
俺達は今よりももっともっと強くならなければいけない。
俺は術を磨くため、これからもう一度湖沼地帯へ戻る。
小屋にはザブルさんの書もあるし、あの森ならいくら壊してもまた再生するからな。
おまえ達は、どうする?」
自分の考えを述べたデントが訊ねた。
2人はしばらく考えていたが、心を決めたようにジュウマが立ち上がった。
「俺は、クラリアットへ行く。
あそこなら強い奴らがいっぱいいるだろうし、闘技場だってある。
それに、俺は碧の月になったらそこに修行の場が移ることになっていた。
師匠がそう言っていたんだ。
だから俺は、クラリアットへ行く」
そして、楽も。
「拙者は、剣の達人を捜して修行を受けたいと思います。
幸い、この町には多くの旅人が訪れると聞きました。
剣の達人の居所を知っている方もいるでしょう。
それに、黒の月までにはまだまだ時間があります。
色々なところを回ることが出来れば、ザブルさんのこと、ガロンのことも解るかもしれません」
こうして、3人がそれぞれの道を選んだ。
3人は先程の騎士に礼を言うため、部屋を出、カウンターでこの宿の主人らしき男と話している騎士を見つけた。
体をマントで覆ってはいるが、そこから見てもがっしりとした体つきで、その精悍な顔立ちは、砂漠での旅の様子を彷彿とさせる。
3人は厚く礼を言った。
「我ら砂漠の民は、砂漠の平穏を守るが役目。礼には及びません。
あまり知られていないことなのですが、近々開かれる闇市のおかげで、怪しい人物が砂漠に集まっています。
警備を厳重にしていても、砂漠は広い。
我らの目が全てを見ているとは限りません。
これから砂漠を旅するのでしたらくれぐれもご注意を。
私は他に用がありますので、これで」
そう言って騎士は宿を出ていった。
「かっこいなぁ、ストレシア騎士団。
流石砂漠の民だぜ。俺、昔からずっと憧れてたんだよなぁ……」
それを見送るデントがぼそっと言った。
3人はその後荷物をまとめ、町の酒場に場所を移した。
そこで色々な話をした。
楽達が来る前のザブルの話、ジュウマの修行の話、そして、楽とデントが洞窟で大変な経験をした話など、話の種は尽きなかった。
最後にジールで乾杯し、お互いのこれからを励まし合う。
「短い間だったけど、一緒に旅が出来て楽しかった。
……黒の月にまた会おう!」
デントが片手を前に突きだした。
「はい、黒の月に」
楽がその手に自分の右手をがっしりと重ねる。
「絶対強くなってやる!」
最後にジュウマが大きな左手で二人の手を覆った。
こうして、その日の夜に3人は別れた。
デントは森へ、ジュウマは草原へ、そして楽は砂漠に残ったのだった。