ファンタジア

在村楽25

「何だ? 今の音は!」
「何かの爆発音のように聞こえましたが……

 ドカドカッ! バキッ! バリバリッ!

 またです……森の奥で何かが起こっているのでしょうか……」
「そうらしい。それも、魔法が使われている……」
 二人はしばし沈黙する。
 その間も爆発音や木の倒れる音が聞こえる。

「……どう、しましょうか……」
 楽が沈黙を破った。
「……そうだな……
 あの音からして、音の主は激しい魔法を使っている。
 ましてやここは初めて入った森だ。
 おまけに、魔法力的に少しおかしいところもある
 ……………………
 ……俺達が出ていって、どうなるものでもないだろ。
 逆に、向かう途中に迷ったりしたらそれこそヤバイぞ」
 しばらく考えた末、デントが答えた。
「……それでは、今日はもう休むことにして、明日にでもその場所をのぞいてみますか?」
「そうしよう。
 無責任だと思われるかもしれないが、初めての場所、しかもあんな状態だ」
 そう言ってデントは森の奥から聞こえてくる音に耳を傾けた。
「旅の7箇条に入ってるだろ?
『新しい土地で無理は禁物、深入りは危険』ってな。
 だから、新しい旅の始まりは様子見からはじめる。
 これが俺のポリシーだ」
「ポリシー……ですか」
「そう、ポリシー。
 そう言うわけで俺は寝る。わがまま言って済まないな。
 でも、おまえもこれから旅を続けていくのならやっかいごとにばかり足を踏み入れてると大変なことになるぞ。
 旅には人それぞれ違う旅の仕方がある。
 おまえも早く“自分なりの旅”ってやつを見つけた方がいいのかもしれないぞ」
 そう言ってデントは横になってしまった。
 残された楽は一人考え込む。
「自分なりの旅……か」

 夜は更けていき……

 

 次の日の朝、もう森は静かになっていた。

「行きましょう、デントさん」
 先に起きた楽が寝ぼけ眼のデントを促す。

 二人は北に向かって歩き出した。
 途中、木々がなぎ倒され、血のような跡が付着している場所を通った。
 そこが昨日の音の発信源だったのであろう。
 しかし、そこには人の影すら見えず、ただ、誰かがいた証として、火をたいた形跡が見られただけだった。
 何があったかを二人は知るよしもない。

 二人は北に向かって歩いている。
 召喚術師の住むという、湖沼地帯に向かって……。

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