「あ〜あ……囲まれちまったよ……」
「そのようです……」
のんきな口調でそう言うデントに、苦々しい口調で楽が答える。
さっきまで見えていた入り口の光はいつの間にか消え、代わりに赤い物体が目の前の空間を壁のように覆っている。
「おまえ、どうにかしてくれよ。その剣でズバッと一気にさ……」
「これだけ数が多いと、拙者の剣でも難しいかと……」
「だよな……」
しばしの沈黙。
あちらから襲ってくる気配はないが、囲みを解く気も無いようだ。
一斉攻撃のタイミングでも見計らっているのか。
「でも……少しは減るかもしれない……
よし、俺が下にしゃがんだ瞬間、このあたりを剣で薙いでくれ」
両手を広げ、その位置を示しながらデントが言った。
楽は頷き、剣の柄に手をかける。
相変わらず四方からは擦れるような音、すなわち羽音が聞こえる。
その音は囲まれたときから一定で、
近寄りもしなければ、遠ざかりもしない。
なぜ襲ってこないのだろう……
楽は不思議に思いながらもデントの合図を待つ。
「いけッ!」
かけ声と共にデントが勢いよくしゃがみ、
合図を受けた楽がその剣で一文字に薙ぐ。
ヒュッ
たいまつの光を受けた楽の剣が、ひとすじの閃光となってデントの頭上を通過した。
……しかし、そこに予想していた手応えは無かった。
おそるおそる立ち上がり、辺りを見回すデント。
彼らの目に映ったもの……それは、何もない空間……闇だった。
さっきまで確かに聞こえていた音までも消えている。
耳や腕をかすめていったあの感触は確かに本物だったのに、どうして……?
驚きからか、安堵からか、二人は魔法でもかけられたように固まっている。
「どうなってるんだ?
俺達は奴らに囲まれてて……それで、俺の合図でおまえが……あれ?」
やっと落ち着いてきたデントが切り出す。
「そうです。あなたの合図で拙者が剣を抜きました」
「それだけでみんな消えちまったってのか!
おまえ、もしかして……ソーサレスか何かじゃないのか?」
「そうじゃ、わしはソーサレスじゃよ」
「やっぱりそうだったのか……そんなカッコして剣持ってるからてっきり剣士だと思ってたのに、こいつはいっぱい食わされたな。
…………………?! ……“わし”? “じゃよ”??」
いつのまにか、デントの後ろには満々の笑みを浮かべた老婆が立っていた。