ファンタジア

在村楽11

「あ〜あ……囲まれちまったよ……」
「そのようです……」
 のんきな口調でそう言うデントに、苦々しい口調で楽が答える。
 さっきまで見えていた入り口の光はいつの間にか消え、代わりに赤い物体が目の前の空間を壁のように覆っている。
「おまえ、どうにかしてくれよ。その剣でズバッと一気にさ……」
「これだけ数が多いと、拙者の剣でも難しいかと……」
「だよな……」
 しばしの沈黙。
 あちらから襲ってくる気配はないが、囲みを解く気も無いようだ。
 一斉攻撃のタイミングでも見計らっているのか。
「でも……少しは減るかもしれない……
よし、俺が下にしゃがんだ瞬間、このあたりを剣で薙いでくれ」
 両手を広げ、その位置を示しながらデントが言った。
 楽は頷き、剣の柄に手をかける。
 相変わらず四方からは擦れるような音、すなわち羽音が聞こえる。
 その音は囲まれたときから一定で、
 近寄りもしなければ、遠ざかりもしない。
 なぜ襲ってこないのだろう……
 楽は不思議に思いながらもデントの合図を待つ。

「いけッ!」
 かけ声と共にデントが勢いよくしゃがみ、
 合図を受けた楽がその剣で一文字に薙ぐ。

 ヒュッ

 たいまつの光を受けた楽の剣が、ひとすじの閃光となってデントの頭上を通過した。

 ……しかし、そこに予想していた手応えは無かった。
 おそるおそる立ち上がり、辺りを見回すデント。
 彼らの目に映ったもの……それは、何もない空間……闇だった。
 さっきまで確かに聞こえていた音までも消えている。
 耳や腕をかすめていったあの感触は確かに本物だったのに、どうして……?
 驚きからか、安堵からか、二人は魔法でもかけられたように固まっている。

「どうなってるんだ?
俺達は奴らに囲まれてて……それで、俺の合図でおまえが……あれ?」
 やっと落ち着いてきたデントが切り出す。
「そうです。あなたの合図で拙者が剣を抜きました」
「それだけでみんな消えちまったってのか!
おまえ、もしかして……ソーサレスか何かじゃないのか?」
「そうじゃ、わしはソーサレスじゃよ」
「やっぱりそうだったのか……そんなカッコして剣持ってるからてっきり剣士だと思ってたのに、こいつはいっぱい食わされたな。
…………………?! ……“わし”? “じゃよ”??」
 いつのまにか、デントの後ろには満々の笑みを浮かべた老婆が立っていた。

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