ファンタジア

リーザ5

 1日目、リーザは夜通し走り続けていた。
 理由は簡単で、単に彼女は「お化け」に会いたくないだけだったのだが。
(リーザの苦手なものは虫でもネズミでもなくお化けだった。)
 彼女は生まれつきか、村の中では脚が極端に速かった。

 持ってきた荷物はと言えば、護身用の簡素な槍と水・食料、それに防寒用のローブだった。ローブは暑いので、犬のシェプシの首に巻き付けてある。
 ありがたいことに、アスリーフの森では肉食モンスターやその他の面倒な生き物には会わなかった。……もちろん「お化け」にも。

 彼女の驚異的な体力と脚力、それに運の良さも手伝ってか、たった1日で1人と1匹はアスリースとストレシアの砂漠の国境までたどり着いた。
 今までいた湿っぽい森とは違って、その砂漠は死のニオイを漂わせていた。
 1歩を越えればそこは別世界……地獄という言葉がピッタリだった。
「う〜ん……。こーゆー涼しい服装で良かった〜! でも、あんたは暑そうねぇ」
 シェプシに言葉をかけてから、リーザはしばらく森を見渡した。
 もう、当分の間、この国からさよならなんだ……。
「ま、ウダウダ言っててもしょうがないものね。行こっか、シェプシ」
 彼女の水色の服が気休めにでも、暑苦しい気分を和らげてくれる。

 が、歩き始めて2日目、砂漠に入って3時間もしないうちに彼女らの速度は極端に落ちていた。リーザもシェプシも、暑さに弱いのだった。
 シェプシは始終舌を出していた。リーザも脱水症状が起こるかと思う程汗をかいていた。またたくまに水が底をつき始めた。
 のこりわずかな水をとりだし、それをシェプシに全て与えてから
リーザは言った。
「あ……暑い〜……。あんたは私よりよく食べるんだし、荷物まで運んでもらってるものね。いいわ、これ全部飲んでいいわよ。私は(たぶん)大丈夫だよ。……にしてもその毛皮、脱げたらいいのにね」
 実際彼女は大丈夫では無かった。汗は滝のようにあとからあとから流れ落ち、目の焦点は定まらぬ程であった。

 ……夜はそれと違って、ものすごい寒さだった。
 彼女はその気温に腹を立てていた。
「全く……ココはなんて腹立だしいのかしらね! 昼と夜を足して2で割りたいわ。あああ、寒ぅ〜……」
 しかし、昼ほどは苦労しなかった。モコモコのシェプシが近くにいたし、2人は寒さには強い方だったからだ。

 3日目。また変わらずノロノロと進んでいた。
 が、前方になにやら人影を発見した。フラフラと進んでいる。
 シーフなのか、蜃気楼なのか、旅人なのか。
 彼女らは慎重に近づいていった。

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