ファンタジア

ヘスティア10

 エルファとヘスティアは宿の部屋で話していた。  
「さっきの人たち、なんだったんだろうね…」
 エルファが窓から外を見て言った。
「さー…でも、追いかけてきたって事は何かやましい事でもあったんでしょ」
 ベッドにねっころがったヘスティアは言った。
「…あのさ、私自分は竜人だって言ったじゃない?」 
 エルファは外を見たまま答えた。
「うん。知らなかった」
「あれ、半分は本当で半分は違うんだよね…私、ハーフなのさ」
「へー…」
「父親の耳が尖ってて母親が竜になれた」
 日が落ちてきた。
 ストレシアの窓は気候の問題であまり窓がない。
 オレンジ色の光がヘスティアの所までとどいてきた。
「耳が尖ってるのて確かエルフだっけ…?」
「多分。で、私は何か相性が良くなかったのかな…どっちの力も中途半端にしか受け継がなかった。魔力っていうの? それはけっこう持ってるらしいんだけど操れない。竜にもなれない。で、すべてが中途半端だから履歴上では人間ってことになってる。耳もとがってないし」
 そこでエルファはふと疑問に思った事があったので聞いてみた。
「だって、さっきは翼がでてたじゃないか。あれは?」
「だから私は中途半端なのよ。竜の体を部分的に引き出す事はできるの。最近やった事ないけど、確か爪と牙も出せたわよ。長時間は無理だけど…あとは寿命」
「寿命?」
「竜人は寿命、そんなに長いってわけじゃないらしいんだけど…エルフって長いって言われてるでしょ」
「…うん?」
「で、そこだけやけによく受け継いだらしくって、エルフより長いのよね、寿命」
 エルファはそこでやっとヘスティアの方を向いた。
 ヘスティアはいつの間にかテーブルの上に置いてあったポットから2つのカップに紅茶を入れていた。
「………エルフより、長い?っていうか何を…」
「エルファ君、いくつ?」
 カップに角砂糖を入れながらヘスティアが言った。
「1つ」
「いや、砂糖の数じゃなくて。歳」
「ああ、歳か。13だけど」
 つっこまれるのはいつもヘスティアだったが今回はエルファだった。
「…。けっこう若いね。でも私と桁がひとつは違うよ」
 今度は絶句したエルファ。
「年位前に世界からいきなり竜人が消えたっていうの知ってる?」
 気にせずヘスティが続けた
 そこでエルファが正気に戻った。
「…歴史の本で読んだ」
「エルファ君は記憶力がいいね、見習いたいよ。私なんか30年前の事でさえ覚えてないのに」
「あのさ、僕は30年も生きてないから分からないんだけど、とにかく進めてよ」
「ああ、すまないね、脱線して。で、その事が起こった次の日、私が朝起きたらもう母はいなかったの。父は何も教えてくれなかったけどね」
「――…」
「さ、夕ごはんでも食べに行こうよ。おなかすいたでしょ?」
 ヘスティアが紅茶を一気に飲み干した。
「あ、紅茶飲むから待って」
 エルファが慌てて駆け寄って紅茶の入ったカップをつかもうとした――が、ヘスティアがそのカップを取った。
「何言ってるの。これは私の」
「…もうひとつの方は?」
「だから、2つとも私の」
 そう言うとさっさと飲み干してしまった。
 唖然としているエルファを置き、ヘスティアは立ち上がった。
「さ、どこか食堂でも探してこよう」
「………」
 エルファはもう何も言えなかった。

 食堂を探して表通りを歩いていると、さっきの情報屋のところまで来てしまった。
 幸い外にはあの男達はいなかった。
「引き返そうか。みつかったら大変だよ」
 そう言ってエルファは引き返そうとした。
「ちょっと待って」
 ヘスティアはその店の裏へ回ろうとした。店と店の間の細い道を歩いていく。
 エルファが慌てて追いかける。 
「ねえってば。何やってんの?」
「静かに。ほら、見えた」
 ヘスティアは窓から中を覗き込んだ。
 エルファも見てみた。
 店の奥の方が見え、先ほどの男達と店の男が小さなテーブルを囲んで夕食をとっていた。
 エルファがなぜかコケそうになる。
「…あのさ、これの何が…」
「ほら。話してる」
「…?」
 耳を澄ませた。
「おい、もう酒はねえのか?」
「まったく、さっきの2人はなんだってあの事を知ってやがったんだ?」
「さあな。だが追跡の瞳の事を知ってるんだったらほっとく訳にもいかねえよ」
「一体どこに消えやがったんだ…」
 などと話しているのが聞こえた。
「ねえ、やっぱり何かあるんだよ、あれは」
「どうする? エルファ君」
「どうするって言っても…」
 店の中から料理のいい匂いがしてくる。
 たまらずヘスティアは言った。
「まあ…とりあえずごはん食べてからにしない?」
「…賛成」

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